朝7時、俺はもう一度るかに電話をかけた。
眠そうなるかに、俺は言った。
「この試合見て、決めろ」
「は?」
「俺と、本気で付き合うのか」
「はぁ? だから勝手にそんなこと…」
「いいから、決めろ」
驚いて押し黙るるかに、俺は続けた。
「俺はさ、お前と付き合っていきたいから」
「…そんなの」
「返事は明日だ、じゃあな」
夜中考えて、そう決めた。
だから俺は、今日あいつとの最終勝負に出る。
ユニホームを着てグラウンドにあがる。
少々びびり気味のチームメイトをどつきながら、俺は探す。
…いた。
ワンピースから細身のジーンズがつきだしていて、
あの日と同じ黄緑色のスニーカーがひょこひょこ動いている。
ちょっと不安げな顔をして、ひとりで座ってみているるか。
俺は大きく手をふった。
「おーい!」
るかはびっくりして少し怒ったような顔をした。
そして、恥ずかしそうにちょっとだけ手をふった。
俺は舞い上がって、前のヤツにぶつかる。
「馬鹿」
口だけ動かして、るかは笑った。
試合開始の合図、ホイッスルがなる。
*
試合は接戦だった。
相手のB組はサッカー部のヤツが、がんがんシュートをしてくる。
しかし、俺のクラスにはサッカー部のゴールキーパーがいるのだ。
俺はいつだって運がいい。
それよりも苦戦しているのは、露骨なファウルだ。
俺と対立しているグループのメンバーがはたくさんいる敵チーム。
あからさまなファウルに最初は耐えていたものの、そろそろ厳しい。
それでも俺は耐え続ける、『スマート』のためだ。
ハーフタイムに入り、俺はひとり飲み物を手にする。
るかはこない、何にもしにこない。
まぁ、そんなもんか、俺が試合に勝てば話は変わるかもしれない。
「なんかお前おかしくないか?」
「あぁん?」
敵チームの金髪が突然話しかけてきた。
金髪は意地悪く笑うと、俺にぶつかってくる。
「つ…っ」
「お前さ、いつもだったらこんなことしたら大暴れだよな」
「だからなんだよ」
「最近は全然抵抗してこないじゃん? いいチャンスなんだよねぇ」
金髪が笑うと、まわりのヤツらもにやにやしながら近づいてくる。
…かこまれた、か。
「俺達はさ、全然いいのよ、この試合の結果なんて」
「だからー、好き勝手やらせてもらうわ」
そう吐くと同時に、ひとりが俺に突っ込んでくる。
俺はそれをすりぬけて、軽く力を加えてやる。
それを合図に、まわりのヤツらがいっせいに突っ込んできた。
よけるようにして足をかけ、俺はその輪の中から出ようと走る。
しかしまわりにはもう、防御網が敷かれている。
「きたねぇ野郎だな、てめぇら」
「そんなことどうでもいいんだよ」
「重要なのは、お前を倒して俺達がトップに立つことなんだよ」
ひとりのパンチが体に入る。
俺は身を縮めてよろけた。
そこにまた新たな拳が入る、エンドレスに。
―――こんなはずじゃない。
俺は、るかに認めてもらうために、ここ数日努力したんだ。
日ごろからスマートに生きて、試合はさらっと勝って。
るかに振り向いてもらうために、そのためだけに。
殴られる頭で、俺はそれだけを考えていた。
抵抗はしない、るかが喜ばないと思ったから。
そんだけだ。
ドスッ
金髪が俺の目の前から消えた。
唖然としてふりかえる。
「あんたたち、バッカじゃないの?!」
逆行に立ちはだかる、細いふくらはぎ。
黄緑のスニーカー、にぎられたちいさな拳。
「お前、なんなんだよ!」
「あたし? あたしはこいつの…」
「はぁ?」
にやにや笑うまわりのヤツにかまわず、軽やかな回し蹴りを繰り出す。
大きな音を立てて倒れる男の背中を踏みつける。
「あたしはね、絶滅種の女!」
「…?」
「世の中探しても、どっこにもいない貴重な女!」
そう言って今度は両側の男を思いっきり殴った。
「そんで、こいつは傲慢男」
左の男の腰を蹴り飛ばし、右の男の足をひっかける。
「しかもこいつは、絶滅種の女に惚れた男」
俺の前に颯爽と立つ。
ぐっとつきだしたちいさな手のひら。
「だから、絶滅種の女は傲慢男を助けるの」
俺はるかの手を取った。
NEXT?