俺の手を引いてるかは走る。
俺はそのちからに流されるように走る。
るかにふりまわされてる自分。

あぁ、なんて心地よいんだろう。

るかの荒い吐息が聞こえる。
顔を少し赤らめて、必死で前を向いて走るるかがいる。
俺の手の中に、るかの手がある。

あぁ、なんてしあわせなんだろう。

「ば…バッカじゃないのぉ…」
「ずいぶん走ったな」
「あ…んた…全然息あがってないじゃん!!」
「しょうがないだろ、俺男だぞ、るかと同じ体力だったら生きていけねぇよ」
「…ムッカつく」

ぜぇぜぇと息を吐くるかは手を離そうとする。
その手を強く握り締めた。

「ちょ、なにすんのよ」
「お前、俺と付き合う気あるの?」
「…っ」

窮したように困った顔をするるか。
今じゃあそれさえ愛しい。
女なんて俺になついて甘えるだけのものだと思ってた。
言ってみれば、玩具だ。

それなのにこいつは俺の思い通りになんかならなくて。
それなのにこいつは俺のことなんて見ちゃいなくて。
それなのにこいつは俺の頭にどんどん広がっていって。

それなのにこいつは俺の心の一番大事なところをぐいぐい締め付ける。

「俺は、るかが好きだ」

自然に、計算もなく、その言葉が出る。
俺の部屋でDVDを見ていたちいさな背中も。
ぷらぷら伸びた足も。
あんまり可愛くない顔も。
生意気な唇さえも。
俺の目に映れば、それだけで特別な女。

「だから、俺と付き合ってください」

返事はない。
るかはうつむいている。

そしてちょっとだけ俺の手を握り返した。

「あたしはさ…」
「何?」
「あたしはさ、あんたのことなんて全然知らなかったんだ」
「うん」
「でもさ、あんたって結構頑張りやなんだね」
「?」
「葉月くんがね、口を滑らせたの、『今、野蛮女のために番長は必死なんだ』って」
「…葉月の野郎」
「でもさ、あたし、それでわかったんだよ! …あんたがあたしのために頑張ってるって」
「…」
「あたし、はじめてなんだ 男子にそんなふうにしてもらったの」
「…それで」

「だ、だから、あたし、あんたと付き合ってもいいよ!」

顔を真っ赤にして、一生懸命話し終えたるか。
ちょっとだけ強く握り返した手。
俺は嬉しくて、るかを抱きしめた。

「やったー!! やったやったやったー!!」
「ちょっと、やだ、話して亮輔!!」
「亮輔?! やったー!るかが俺の名前はじめて呼んでくれたー!!」
「んもう、恥ずかしいってば、やめてー!!」

思い切り入った平手にだって耐えてやる。
俺はるかの全部が好きだから。

「亮輔…」
「何、何なに何?!」

そう、彼女は恥ずかしそうににっこり笑っていったのだ。

「絶滅種の女で、ごめんあそばせ」

俺の彼女は冴島るか、絶滅種の女。
俺の大切な、愛しい彼女。

THE END