「あんた何に出るの?」
「サッカー」
「ふーん、あたし好きくないんだよねサッカー」
前日の夜に、俺はひさびさにるかに電話をかけた。
るかはいつもどおり、少しだけ少年みたいな声で話す。
色気のない声も、いつしか俺の耳に心地よい。
「でさ、あたしのこと誘ってきた人、あのキツネ王子みたいな人」
「葉月春一?」
「そうそう、その人がね『俺はバスケ出るんだ、見にきてね』って」
「…」
「あたし、葉月君とこ行こうかな」
「ざけんな馬鹿!」
思わず暴言を吐く。
いかんいかん、俺は只今矯正中だったのだ。
「あ…やっちゃった」
「ちゃった? 意外とかわいい言葉遣いね」
「あのなぁ」
「ふふ、まぁいいわ 明日は暇だし、パシリの横田には借りがあるし」
サブは呼び捨てか。
「とにかく絶対来てくれよな」
「…なんかあんた、変わった? 超微妙なんだけど」
あからさまな嫌悪感を露骨にあらわしたるかの声がする。
俺は少しひるんだ。
…嫌われてる?
いや、それは以前からずっとだ。
気を取り直して、俺はまたしゃべりだす。
「一応観覧席をサブにとらせたから、そこで見てろ」
「げー、あたしひとりであんたの試合観戦するの」
「しょうがねぇだろ、なんだったらそのへんで知り合い探せ」
「へ?」
「たぶん、彼女呼んでるヤツがいるだろ」
「あー」
「そんなかにるかの学校のヤツもいるだろ」
「まぁ、あたしはあんたの彼女じゃないけどね」
「…」
るかはいつもどおり無駄口叩いて電話を切った。
俺はそれでも、るかとつながっていた時間が心地よかった。
今までの女には持たすことのできない、そんな時間。
るかだけがくれる時間。
NEXT?