るかは店中歩き回って好き勝手DVDを選ぶ。
ときどき俺に意見を求め、俺の答えに鮮やかな反応をしめす。
2本選んだDVDを借りて、俺達はまたバイクで走る。

「ほー、ここがあんたんち!」
「あぁ」

るかは少しだけ呆けて、あわてて俺の後を追いかけて入ってきた。
庭にいた白いスピッツに大喜びして、俺が引き離すまでべったりだった。
広い庭ね、あんたにはもったいないわとぶつくさ言っていた。

「ここが俺の部屋」
「…本当に?」
「あぁ」

家具の全てを黒やシルバーで統一した生活感のない部屋。
ここが「俺の部屋」と呼んでいるところだ。
つまりは、女を連れ込むための部屋。
つぎつぎと女を連れ込む俺にあきれた母親が、別室を用意した。
俺はそこでは生活せず、ひとときの快楽に溺れるためだけの部屋。

「嘘だね、あんたはここじゃ生活してない!」
「は?」
「ここはたぶんあんたが女を連れ込む部屋、きれいすぎだもん」
「…っ」

驚いた、まさかそこまで見抜かれるとは…。
呆然としている俺ににんまりと笑って、るかはドアを開けた。

「言ったでしょ、そこらの軽い女と同じ扱いしないでくれる?」
「…」
「さーて、あんたの部屋を探そうかしらね」

言うが早いが部屋を出たるかは、廊下中の扉を開けて走り出した。
止めるまもなく、るかは笑いながら俺の手をすりぬけ、ついにドアを開けた。

「うっわ、きったないな」
「…お前、誰が開けていいって言った!!」
「ちょっと触らないでよ! それにしてもきたないわね」

そう言ってずかずかと俺の部屋に入っていく。
…別にそんなにきたないわけじゃない。
俺の過ごしやすいように、なってるだけだ。

るかはテキパキとゴミを片付け、本を本棚に戻す。
一挙に広くなった部屋に、はじめてこしを下ろした。

「これがDVDプレーヤ?」
「そうだけど」
「じゃあみよみよ、まずはこれね」
「…」

俺の存在など気にすることもなく、るかは2本のDVDを見切った。

*

「で、亮くんはあの野蛮女とはまだなんもしてないわけ」
「そうだよ」
「ありえねぇ!!」

昼休みの教室で、サブはぶっとんだ。
俺がひっぱたいたからだ。

「るせぇな、俺を誰だと思ってんだてめぇは」
「東高の番長兼暴れん坊将軍」
「兼は余計だ馬鹿野郎」
「だって、亮くんマリとは3日でしょ」
「あぁ、あの女寝顔が不細工だから捨てた」
「あと、リエとは5時間でしょ」
「あぁ、あいつ骨みたいながりがり体型だったか寸前でやめた」

ちなみにリエはいまだに俺を追いかけてくる。
ぶりっこにしてはねちっこい女だ。

「その亮くんが…ここ1ヶ月ずっとDVDだけ見てるの…」
「あぁ」
「しかも野蛮女は亮くんには目もくれないんでしょ」
「そんなこたぁねぇよ!!」

もう一度サブをはたくと、サブは思い切り窓に頭をぶつけた。
鈍い音がした。

「あ、そうだ! 亮くんその野蛮女連れてきなよ球技大会」
「はぁ?」
「亮くん得意のサッカーででるんだろ? いいじゃんきっとほれるよ」
「あいつはそんな簡単な女じゃないぞ…」
「でも、今のまんまじゃDVD見続ける羽目じゃん」
「…」
「まぁ実を言うと葉月をつかってもう誘ってあるんだけどね」
「はぁ!?」

最近の俺はなかなか自分の思い通りに行かないらしい。

*

「葉月、お前…」
「しょうがないじゃん、横田は横田なりに考えて俺に頼んだんでしょ」
「お前そんなにお人よしだっけ?」
「あ、バレてた? ちょっと面白そうだったから」

にっこり笑う葉月の顔に俺は蹴りを入れたかった。
でも我慢する。

「…河野なんかおかしくない? いつもなら確実に手が出てたでしょ」
「矯正だ」
「は?」
「今回の球技大会で、俺は礼儀正しいスマートな男だって見せる」
「それ、横田の考えなの?」
「あぁ、ああいう野蛮女はそういう男が好きなんだってさ」
「ふーん」

葉月は笑った。

「いつまでもつかね」
「いつまでだってもつさ、俺は冴島るかを絶対にオトす」
「それは楽しみだ」

葉月はまたにんまり笑って、歩き出した。
その細い後ろ姿は、どこか楽しそうだった。

俺はサブと「スマート」だと思われるものを研究した。

ちょっとインテリ。
無駄口は叩かない。
レディファースト。
さわやかな笑顔。
つねにフェアプレイ。

俺に欠けたものすべてを意識して、日々生活した。
たまにはへまもやらかしたが、徐々に板についてくる。
そうして球技大会までの2週間、
俺はるかとはいっさい連絡を取らずに懸命に努力した。

そしてついに、球技大会前日の夜が明けた。


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