「はじめて一緒に見る映画にスプラッター系を選ぶなんて最低ね」
「…お前、ほとんど見てなかったじゃん」
「うっさいな、ああいうのは映画だとは認めてないのよ!」

かんかんになって映画館を出るるかを追いかける。
…失敗だったか。
この手の映画は「もー超こわかった」で仲良くなれるはずなんだが。
恐るべし絶滅種、俺の手口は利かないってか。

「あんたさー、こーいうの慣れてるんでしょ」
「…」
「だめだめ、あたしをそこらの軽い女と一緒にしてるんじゃあオトせないわね」

得意げに笑うと、るかはバイクを越えて駅へと歩き出していた。
負けた、完敗だ。

「こ、今度はるかの好きな映画にする!」
「へ?」

気圧されながらも、俺は間抜けな声でそう言った。
るかは驚き顔でふりかえる。
こげ茶色の髪がさらさらとなびく。

「るかの好きな映画を、るかの好きな日に見る!」
「…」

唖然としたるかの顔に、俺は何か間違ったことを言ったかと思った。
しかしるかは、そのあと真顔で返してきた。

「じゃあさ、映画館で見るのは高いから、今度は家にしよう」
「は?」
「レンタルで借りて、あんたんちで見よう」
「…はぁ?!」
「だってあんたをあたしんちにあげるのは嫌だし」
「そ、そういう問題じゃなくて」
「レンタルなら気圧されずに好きにDVD選べるし」
「ちょっとまて」
「あ、あんたんちDVD見れるよね? 金持ちなんでしょ」
「いや、見れるけど」
「よし決まり! じゃあー、今週末の日曜日にね」
「だから、ちょっと」
「あんたんちの最寄り駅わかんないから、飯田駅前10:00ね」

言うが早いが学生かばんをぶんぶんふりまわして駅へと歩き出している。
俺にはもうるかを追いかける気力は残っていなかった。

「家に上がるってことがどういうことか、お前わかってんのかー?!」

さすが絶滅種、色気のかけらもない女。
いつしか俺の方が、あいつにふりまわされてる。

*

「遅ーい!」

出会い頭思い切り駅で怒鳴られる。
…待ち合わせ、1分前。

「お前馬鹿か!? まだ時間前だろうが!!」
「だってあたし、何が悲しくてあんたを30秒も待ったと思ってんのよ!!」
「いちいちうるせー!!」

怒鳴りながらふとるかを見ると、スニーカーにジーパンだった。
俺と会うのにスニーカーを履いてきた女は…いなかった。

「何でお前スニーカーなんだよ!!」
「だってレンタル行くのにかったかたうるさいブーツとかやじゃん」
「そういう問題じゃねぇだろ!!」

ただ俺は、るかのトップスがちょっとだけかわいいことに気づいていた。
ちょっとだけだ。
ほんのちょっと。

「行くぞ」
「げ、また無免許運転?!」
「いいから乗っとけ」

無理矢理ヘルメットをかぶせて、俺はまた強引にバイクを走らせた。
るかはまた、そっと俺の腰をつかんでいる。

俺のからだは風をうけて少しだけぶれる。
サイドに広がる緑、向こう側に見える川。
無音の世界、俺とるか。
たったふたりだけの、無音の世界。
昔聞いたクラシックのピアノの音が不意によみがえる。
るかの手の温度だけが、伝わる。

俺は少しだけ苦しかった。
なんで苦しいのかはわからない。

だけど、ほんの少しだけ苦しかった。


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