女子高の前でバイクをとめて、警備員に隠れて校内を見てみる。
…どこにもいやしない。
俺はマジギレモードに突入しそうな自分を抑えて裏に回った。
でんと立った体育館のような建物がある。
俺は茂みを越えて、その建物の窓をそっと覗く。

ドンッ バスッ

目の前のマットにものすごい勢いで飛んできた物体があった。
動体視力のいい俺は、その物体が回転しているのがわかった。
そしてそれが紺色のジャージを着ている、色気のない女だと言うことも。

「るか」
「…?」

窓から声をかける俺に気づかずきょろきょろするるか。
俺はもう一度呼ぶ。

「おい、るか」
「うわ! …ちょっと、なんでここにいんの?!」
「校門に来いって言っただろ それなのにこねぇからだ」
「だってまだ学校終わってないもん 部活だし」
「もう放課後だろ!? さっさと抜けて来い!!」
「しーっ!!静かにしてよ!! …じゃあ、飯田駅前の喫茶店で待ってて」
「美鈴のことか?」
「そう …いいから早く行ってて!!」

言うが早いが窓に手を突っ込んだるかは俺の顔をおしのけた。

「バレたらあたしが困るの 早く行け馬鹿!!」

俺の誘いを断った女、足蹴にした女はいなかった。
この女をのぞいては。
俺は不服ながらも喫茶美鈴までバイクを走らせた。

るかがやってきたのはその30分後だった。

「遅ーい!」
「うるっさいな 部活があったんだからしょうがないでしょ」
「俺はもうコーヒーを飲み終わったぞ」
「あそ あ、すみませーんチョコパフェひとつ」
「あそ、じゃねぇよ 謝れ!!」
「いやよ 無理な約束をしたのはそっちでしょ」

ずいとそばかすだらけの顔を前に出して威圧してくる。
俺も負けじとガンとばす。
にらみ合っていたが、るかはあっかんべーして座り込んだ。

「もう、あんたってばどうしてそんなに幼稚なのかしらね」
「俺は頭良し性格良し、おまけに顔良しだ、ブスのお前と違ってな」
「うはーっ! 信じられない」

るかは注文したチョコパフェをつつきながら顔をゆがめた。

「やっぱりあたし、あんたなんかとは付き合えないわ」
「なんでこんなに頭良しせ」
「うるさい! それ以上言わなくていいわ 腹立たしい」
「どんなことを言ってもお前はオチる 1ヵ月後にはべろべろだ」
「その言葉、二言はないわね?」
「あぁ、絶対だ」
「じゃあ、1ヵ月後あんたに惚れてなかったら、目の前から消えて」

見下すような目線で、るかは強く言った。

「その代わり、るかが俺に惚れてたら何してくれる?」

俺は制服姿のるかに詰め寄った。

「そうね、ドラマみたいな恥ずかしい告白をしたあげる」

自信たっぷりにるかは笑う。

***

「ふー おいしかった」
「ずいぶんきれいに食べるんだな」
「あら、当たり前じゃない 食べ残しほど汚いものはないわ」
「ふーん 育ちは悪くないのか」
「おあいにくさま」

口を丁寧にふいたるかは、かばんを持って立ち上がった。
勘定のプレートに手を伸ばそうとするのを、俺はすっととめた。

「あんた、おごってくれるの?」
「あぁ、男のたしなみだ」
「悪いけど、それはあたしがあんたに好意を持ってたらの話よね」

俺の手からそれをひきぬくと、るかはさっさとレジへと向かってしまう。
まったく、どれだけ強情なんだ。
俺はるかのあとを追う。

喫茶店を出ると、さっさと駅に向かおうとする。
その腕をつかむと、るかはあからさまにいやな顔をした。

「だから言ってるでしょ、あたしあんたと一緒にいる気はないの」
「いいから黙ってついて来い」
「ちょ、離してよ」

精一杯抵抗するるかを無理矢理後部座席に座らせてヘルメットを被せる。
俺はバイクのエンジンをかけた。

「ちょっと、あんた、免許持ってんの?」
「免許を持ってる親父に教わった」
「てことは持ってないわけ?!」

降りようとするるかを抑えて、俺は走り出した。
るかはちいさな悲鳴をあげて縮こまる。
鋭い風が俺に向かってきた。

「ねぇ、どこまでいくの?」
「教えたら付き合うか」
「ぶっとばすわよ」
「嘘だよ、暴れるなって!!」
「だからどこいくの? あたしにだって用事はあるのよ」
「教えたら嫌がりそうだから」
「まさかホテル?!」
「お前、俺にどんなイメージ持ってんだよ」

緑がサイドに広がる道路を抜けて、とばす。
無意識に力を込めてしがみついてくるるかの手の温度を感じる。
ほのかにあたたかいような、つめたいような。
そんなもどかしさが俺を少しだけしめつけた。

「ついた」
「何ここ、映画館…?」
「そうだ」

ちょっとレトロな雰囲気の漂う、俺の行きつけの映画館。
バイクから降りたるかは、ヘルメットを脱ぎながら見入っている。

「映画好きか?」
「うん」
「じゃあ、見ていこう」
「うん」

いやに従順になるるかに俺は笑いをこらえつつ、チケットを買って渡してやる。
るかはぼんやりとそれを受け取って、はっとした。

「ちょっと、あたしぼんやりしてたら、あんたにおごらせてるじゃん!!」
「いちいちうるせぇ女だな 黙って受け取っとけ」

俺はるかの背中をばしっと押して、映画館に入った。


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