生ゴミだらけの制服を抱えた冴島るかは、俺を連れて家庭科室へ向かった。
洗濯機を回し、今度は渡り廊下を歩いて屋上に出る。
強い日差しが照りつけているそこは、誰もいなかった。
あたりまえだ、冴島るかは立ち入り禁止の看板をまたいでいた。

「これでよし」
「…絶対しわだらけになる」
「うるさいな、じゃあそれで帰れば?だっさいよ」

ぼろぼろの物干しざおを黙々とひきずってきて制服を干す。
そうして冴島るかはそこにぺたりと座り込んだ。
俺もあぐらをかいて少し離れて座る。

風になびく制服と目の前のちいさな花壇の花々。
横を向くと色気のない紺色のジャージの冴島るか。
白く輝く太陽に顔をしかめながら俺は携帯を取り出す。
決めた。

「お前、携帯は?」
「あるけど」
「アドレスと番号教えろ」
「はぁ?なんであんたに教えるの」


「お前を俺の彼女にしてやるよ」


沈黙。
俺は横目でのぞくと、冴島るかは真顔で俺を見ていた。

「なんか言えよ」
「馬鹿じゃないの」
「は? 俺がお前を彼女にしてやるって言ってんだろ」
「馬鹿じゃない なんであたしがあんたの彼女になるの?!」
「天下の河野亮輔が、お前みたいなブスを彼女にしてやるって言ってんだよ」
「信じられない、今はじめてあったのにつきあえるわけないでしょ!?」
「俺はお前が信じられないな この誘いを断った女は今までいなかった」

バシッ

俺の言葉に間髪いれずに、冴島るかの手はほおにとんだ。

「いってー!!」
「傲慢な男ね、いったい何様のつもりなわけ?! いいかげんにしてよ!」

言うが早いが冴島るかは俺をつきとばして逃げようとする。
俺はその足首を掴んだ。

「ひゃ、ちょっと何すんのよ」
「…意外と華奢なんだな」

俺の手のひらにすっぽりおさまってしまった冴島るかの足首。
ふいに女を意識していた。

ドスッ

俺の頭を重いきり踏みつけて、冴島るかは逃げようとする。

「何しやがんだ、お前!」
「気持ち悪いこと言わないでくれる!? ていうか離してよっ」
「ムカつくから絶対離さない!!」

持久戦になる。
俺の手をほどこうと必死の冴島るか。
意地でも離さない俺。
小学生並みの阿呆な喧嘩だ。

「あーんもう、いいわよ」

力が抜けたように、座り込んだところを見計らって俺はつめよった。
勝者の笑みを浮かべて。

「アドレスと番号」

冴島るかは悔しそうに口を尖らせて携帯を差し出した。


「言っとくけど、アドレスも番号も教えただけだからね」
「教えたのはお前の意思だからな」


携帯を返してふたたびにじり寄る。

「よろしくな、るか」
「あんたなんかに絶対オチないんだから」
「いや、お前はオチるな 俺完璧だもん」
「馬鹿じゃないの」


俺達はこうしてはじまった。
絶滅種の女と、顔のいい男の物語。


NEXT?