「入って」
「うわ、ここって外部立ち入り禁止じゃね?」
「だろうな」
「つーかさ、あんたは必要ないから、出ててよ」
「えー」

柵を超えて入った部屋は少し雑なかたづけをされた部屋だった。
でも女子高らしい白くてきれいな部屋だった。

「船長はそこで着替えてて、あたしはどっかからジャージを持ってくる」
「ジャージ?」
「先生の更衣室かなんかに、男子用のがあるはずだから」
「それって先公のじゃねぇの?」
「あぁ、別にいいでしょ、緊急事態だし」
「…」
「じゃあ、そこで着替えててね」

そう言ってゴミまみれのまま教室を出ようとする。
その腕をつかむ。

「何?」
「お前、ゴミまみれのまま行くの?」
「そうよ、なんか文句ある?」
「先に着替えれば」
「あ、それもそうね」

そう言うが早いが、女は俺を教室からたたき出した。

「急ぐから待っててね」

にっこり笑って教室に消える。
この女、かなりの性格問題者だ。


***

「あ、河野」
「葉月? なんでここにいんの」
「さっきさー、俺も屋台の前に並んでたんだー」
「あ」
「そーそー、だから東高の番長がはったおされてるのも見てたの」
「…」
「そんでさ、あの子が持ち帰り忘れた腕章を持ってきたんだ」
「別に本部とかに届ければよかったのに」

「だって、あんな子、もう絶滅種でしょ? もう一回見たくてさ」

くすくす笑いながら、葉月はいかにも楽しそうだった。
葉月春一、黒髪キツネ顔でいつもにこにこしている優男。
本性はどうだか知らないが、笑顔の裏にはなんとやら、だ。(俺の勘)
同じ東高で、あいつはA組、俺はC組だ。

「じゃあ俺、これ届けてくるから」
「え、あ、いや、ちょっとま」

止める俺をするりと抜けて、葉月は扉を開けて入っていく。
俺はすぐに閉めきってしまった。
その後に続く悲鳴と暴力の嵐のとばっちりは受けたくない。

…しかし、何の音も聞こえない。
なんだ、もう着替え終わってたのか。

しばらくして、葉月が出てきた。
じゃあねー、と言って俺の横を通り過ぎていく。
俺は扉を開けた。

「おいゴミ女、さっさと着替え持って来いよ」
「うるさいわね、今から行きますよーだ」

イーッと口を開いて、ずんずん歩いていく。
水色のハンドタオルを握っているのが目に入った。
すぐに帰ってきた女は、白のジャージをどんと目の前に置いた。

「着替えるから出てろ」
「ダメ、本当は部外者は立ち入り禁止なの、だから見張ってないと」
「お前、俺が着替えるの見てる気か?」
「バカ! 後ろ向いてるに決まってんでしょ」

そう言ってくるりを後ろを向いた。


「お前、名前は?」
「冴島るか、あんたは?」
「河野亮輔、お前俺のこと知らないのか?」
「はぁー?つけあがってる、あんたなんて知らないわよ」

お前にゴミを投げつけた女達は知ってたよ。
つかお前以外はみんな知ってたよ、阿呆。

「あいつら、お前になんか恨みがあったのか?」
「知らないわよ、でも今回ので確実にうらまれたわ」
「あたりまえだ」
「そういえば、何であんたあそこにしゃしゃってきたのよ」
「俺はああいうシチュエーションが大嫌いだ」
「ふーん、大きなお世話だわ」

少しだけ力を抜いた声だ。
俺はブレザーからジャージへと着替える。
さんさんと照る太陽の光は、教室中に広がっていた。
オレンジ色のカーテンがさらさらと流れる。
冴島るかの、少しこげ茶色の髪も、さらさらと流れる。
ふいに冴島るかがちいさいことに気づく。
ちいさい背中と、ぷらぷらさせた足と、はきかけの革靴。

見ず知らずの女と、ふたりっきりで教室にいる不思議。
俺は少しだけ、まどろんだ気がした。

いつの間にか、俺はがらにもなく、
冴島るかへの興味がとまらなくなっていた。


NEXT?