ねぇ、怒ってる?
そんなメールが来たのは、それから2週間した夜だった。
俺は寝ぼけ眼で見たその状態から起き上がる。
最近は気温が上がって、毎日体力を浪費している気がする。
今日もそんなこんなでベッドに倒れこんだところだ。
別に。
それだけ送ると、メールの返事はすぐに返ってきた。
やっぱ怒ってるじゃん。
でもあたし謝ったよね?それじゃ足りないってこと?
むしろ吾平の方が怒ってるよ。
俺はそう思ってうんざりしながらメールの返事を送る。
怒ってないって。
怒ってるよ、だってメール短いもん、渉怒ってる。
怒ってないってば…吾平しつこい。
やっぱ怒ってるじゃん!!渉嘘つき!!!
吾平はとことんしつこい子だった。
俺はすぐにアドレス帳を開いて、吾平の携帯に電話をかけた。
「もしもし」
「怒ってないって」
「何よそのうんざりしたみたいな声、やっぱ…」
「勘弁してくれよ、もう…なんか奢るからさ」
「本当?! じゃああたしずっと食べたいって思ってたオレンジフロートがあるの」
「…お前」
「いいでしょ、ずっと食べたかったんだもん」
その声は少し空元気だった。
俺はしぶしぶうなづいて、吾平に奢ることにした。
いつだってあいつは勝手だ、今も昔も。
俺ののどにはまだ、魚の骨が残ってる。
それでも俺は勝手な吾平にふりまわされてるみたいだ。
*
「犯人見つかったの?」
「ううん、まだまだいっぱい被害者が出てるみたい」
「そう」
「あたしのつけた手首の傷で犯人探しとかやる馬鹿が出てきたけど」
「そう」
俺は吾平の飲む、オレンジフロートを見ながらそう答えた。
それを一瞥して、吾平は少し息を吐いた。
「あのさ」
「何」
「小杉秀介のことだけど」
俺の動きが一瞬止まる。
「やっぱ何か知ってるのね」
「何が」
「あいつおかしなこと言ったんでしょ」
「別に…」
「何て言ってたの、あいつ」
「吾平とは、つきあってるって…」
かちゃんっ
俺が見上げると、吾平はスプーンを床に落としていた。
「吾平スプーン落ちて…」
「あいつ、そんなこと言ったの?!」
「もうちょっと露骨な表現だったけど…」
「ホテルに行ったとか?」
「…まぁ」
もじもじしてる俺のことなど見ないで、吾平は愕然としていた。
もう一度見上げると、その目はまたフリーズしている。
「吾平?」
「渉…は、そんな話信じてないよね」
「いや…」
「それ、全部嘘だから、あたしあんなのとつきあってないからっ」
「そんなの別にお前の問題じゃ…」
「駄目なの、渉はあたしのこと、そんな風に思ってほしくないの!」
今度は俺を真っ直ぐ見つめて、訴えていた。
その変化に、俺は唖然としてしまう。
吾平は自分の大声に驚いて、席に座りなおした。
「とにかく、あたしはあいつとはつきあってないから」
「でも…」
「あぁホテル? 確かにホテルには行ったよ、でもそれは…」
「それは…?」
「そ、それは、ケーキバイキング、そうケーキバイキングよ!」
吾平は最近ケーキバイキングで人気の上がった某ホテルの名前を出す。
「だから…そんだけよ、何にもないのよあたしは」
「そう」
俺の気のない返事に、吾平は前髪をかきあげた。
その焦ったみたいなしぐさに、俺は少しだけ胸がしめつけられる。
理由も分からないこの痛みが、俺を不快にさせた。
NEXT?