「まぁ大筋は渉の言っていたとおりよ」
そう言ってもう一度ストローを弾くと、するすると流れるように話し出す。
狙われるのは、たいてい放課後の4時過ぎ。
一番最初の被害者Aさん、図書室からの帰りにふらとよった部室の前。
ふいに後ろから出てきた影にふりかえる間もなく、
Aさんは開いたドアの向こうに押し出された。
背中に大きな圧力を感じて、閉まるドアの音を聞く。
がちゃりと音がして起き上がると、もうドアは開かない。
自分の手を見ると、腕にはあるべきカバンがない。
それから延々40分、部屋を出ることも助けを呼ぶこともできない地獄の時間。
部室に帰ってきた後輩によって助けられる。
ドアの前にはぶちまけられたカバン、Aさんの顔は蒼白だったという。
「なくなってたものは?」
「なーんにも、だからAさんももっと恐くなったみたい」
「ふーん」
そのあとも、被害者は増える一方だという。
この前の被害者で、5人を越えた。
誰も何も盗まれず、ただ閉じ込められて孤独な時間をすごしただけだった。
しかしその恐怖は計り知れず。
被害者が同じ部活の部員だというのは、最近わかったらしい。
考えたらそうだったのね、と吾平は言った。
「それで、吾平は平気なの」
「はひ?」
「だから、吾平は大丈夫なの、襲われてないの」
「はは」
「…どっちだよ」
「ちゃっかりだいじょうびですよ」
「…そう」
なんだ、それならいい。
それならいいと、思えればいいのに。
俺はコーヒーフロートの苦味に思いを重ねた。
上のアイスクリームがぐちゃぐちゃに溶けていた。
吾平はそんな俺の顔を不思議そうに見ていた。
「変なの、あんた」
帰り道俺達はまたぎこちない会話を続けた。
なんだっていまさらこの距離を意識しては嘆いているんだろう。
いい加減、そんなこと考えても遅いのに。
だから俺は、途中から妙なテンションで話しまくった。
吾平は少し驚き顔だったが、次第に笑顔を見せた。
これは得策だったのか、家に帰って見た夜空は答えてくれなかった。
小学生の頃から吾平はちいさかった。
今じゃもう平均身長があるが、当時はちびだガリ勉だとはやされていた。
本気で切れたとき、吾平はどうやって俺達を黙らせたっけ。
今でもよく覚えてる。
でも俺は、それを口にしない。
NEXT?