待ち合わせの駅で、俺はなかなか吾平を見つけられなかった。
小学校の時はショートカットだった吾平。
今じゃ髪の毛はずいぶんと伸びている。
そのうしろすがたはとても昔の吾平みたいにひょろひょろじゃなかった。

「渉」
「おう」

馬鹿みたいな返事をした俺に、吾平は笑いかけた。
昔は小馬鹿にしたみたいな顔で俺を見ていたのに。
こいつもずいぶんとやわらかくなったようだ。

よく行く映画館まで歩く。
吾平は思い出したようにしゃべりだし、俺はたまに返事をする。
昔とはあきらかに違う、この距離。
だんまりの俺に、吾平はとうとう切れた。

バシッ

「うおっ」
「なによあんた、全然しゃべんないじゃん」
「別に俺は…」
「楽しくないわけ? 楽しくないなら来なきゃいいのに」

つんとしてさっさと歩く吾平を俺は慌てて追いかけた。
そしてはっとする、この距離感が俺達の距離感。
思い出したその長さを、俺は走ってつないだ。

いまさらその長さ、意識してみたりして俺はまぬけだった。

久々に映画を見るのと喜んだ吾平は、持参のお菓子を俺に突き出した。
なんで持参なのか聞くと、館内じゃとてつもなく高いから出そうだ。
ちゃっかりしてやがる。
映画はそれなりで、吾平もそれなりに満足したようだった。

帰りにシェイクをひとつ奢って、俺達は席についた。
吾平はうれしそうにストローをすっている。
…吾平って、ストローを口の端につけて飲むんだっけ。
くだらない発見にしばし見とれる。
ようやく俺は、本題に入ることにした。


「吾平さ、通ってるのどこだっけ」
「えーっ知らないの? 城崎女子だけど」
「知ってるけど…なんか今、大変なの?」
「何が? あー、体育祭も終わったから会議とかあんのかな」
「そうじゃなくてさ」
「何よ」
「なんか、事件みたいな」

俺はちらと吾平を見た。
吾平は無言で、こっちを見ている。
その目は少し、冷たかった。
小学校の頃、俺を見下したときの目に似ていた。

「何で」
「いや、クラスのヤツが言っててさ」
「何だ、それならさっさとそういえばいいのに、まどろっこしい」

ちゅちゅーとシェイクを吸いながらそう言った。
俺は少し前のめりになって聞いた。

「それってさ、どんな事件なの」
「そーね、たいしたことじゃないと思うけど」
「でも突然誰かに閉じ込められるんだろ」
「…何よ、知ってるじゃない」

鎌をかけられたか。
吾平との会話はいつだって綱渡りだ。

「どこまで知ってるの、話はそれからね」
「…閉じ込められて、カバンぶちまけられる」
「全部知ってるんじゃん」
「…まぁ、適当には知ってるけど、よくわかんないし」
「んー、何聞きたいの?」
「それの詳細キボンヌ」
「オタクか」
「とにかくよくわかんないから知りたいんだよ、吾平の部活だって言うし」
「…」

黙ってシェイクのストローをつつく。
その目に何か不思議な感覚を覚えた。

「あんたもちっとは大人になったのかな」
「は?」
「まぁいいわ、教えてあげるわよ、知ってることは」

そう言ってストローを弾いた。


NEXT?