目が覚めたら、自分のベッドの中だった。
俺、昨日何してたっけ?
そうだ、抹茶オーレを無心に飲んでいた。
あのせつなくなる甘さに、先輩の感触を重ねて。
浅はかってなんて悲しいことなんだろう。
そうして明日は休日だからと、いつしか寝ていたんだ。

どうして目覚めたのか、ふと気づく。
俺は携帯の音楽に目を向けてみた。

新着メール 1件
From ; 皐月先輩

逸る気持ちを抑えて、俺はボタンを叩く。

*

件名 : 恭太郎?

明日暇だったら、一緒に出かけない?
あたし恭太郎に教えたいものがあるんだ。
雑誌で見て食べてみたら、とってもおいしかったの。
予定なかったらメールください。
明日は11:00、学校の前ね。
きみどりの会の、初の遠出よ。

*

浅はかな俺は、その文章に顔を崩して喜んだ。
不思議だね、俺はまだまだ踊る気だ。
アナタと一緒に、踊る気だ。
アナタには、踊る相手がいるというのに。



11:00の5分前についた俺と、同じように5分前についた皐月先輩。
ふたりは顔を見合わせた。
そうして、どちらともなく笑った。
歩き出した皐月先輩の手を、俺はそっととってみた。
先輩は驚いたようにふりかえったけど、何も言わなかった。
ちょっとだけちからをこめて握り返してくる。
そのちからが、あまりにも華奢で、また俺は笑顔になる。
ふたりの距離は、無言のままに縮まった。

どこまで行くんですか、という俺の問いに、
観光地の駅の名前を口にする皐月先輩。
俺は少し驚いたが、皐月先輩は平気平気と笑う。
あたしも昔はすごく遠いイメージ持ってたの。
でもね、それは本当はすっごく近かったのよ。
行ってみないと分からないものね。
ふたり分の切符を手にした先輩と、改札を通る。
水色のベンチに座って少し待つと、見慣れない色の電車が来た。
俺と先輩は、誰もいない長い座席に座る。
ぽつんとおちたみたいな、俺達の存在。
午前の日差しは、まろやかにふたりをつつんでいった。

そっと差し出された先輩の指に、みどりいろのクッキー。
いらない?と首をかしげる先輩がいとおしくて。
俺はその指ごと口にした。
驚いて手を離そうとする皐月先輩の細い手首にふれる。
そうして俺は、つぶやいた。

「今日だけだから」

もう一度目を見開いて、皐月先輩はからだをこわばらせた。
でもすぐに、そのかたい表情は笑顔になる。
やさしくて、かなしい笑顔。

そんな顔、浅香部長にはしないけど。
俺だけに見せる顔だから、好きだ。

すごくいとおしいのに、こんなに近くにいるのに。
俺だけに見せるその笑顔は、とってもかなしい

NEXT?