からからと戸を開けると、いつものように先輩がいる。
俺は靴を脱いで畳を踏んだ。
皐月先輩はさっさとお茶を点てて目の前においてくれた。

「先輩何食べてるんですか?」
「ん、抹茶マーガリンこっぺパンよ」
「口についてますよ」
「あらら」

あわてて口をぬぐい、きっとこっちをにらむ。
その顔が真剣でおかしかった。

「あんた最近言うようになったわけ」
「え、そうですか、俺は事実を言っただけなのに」
「そーいうんじゃないでよ、もっとデリカシー持ってよね」

ぷーっとふくれてお茶を一気飲みする。
あついってわかってるはずなのに、皐月先輩はむせた。

「けっほけほ、あ、あっちぃー」
「あーもう先輩は…これ、飲みます?」
「あ、恭太郎のスポーツドリンクじゃん、ありがとう」

うれしそうにふたをあけて口をつける。
んぐんぐ、と軽快な音がする。

「はぁ、ありがと」
「別にいいですよ」

俺はもらったペットボトルを握りなおして、
それからゆっくりと口をつけた。
――皐月先輩の口づけたペットボトル。
俺ののどが警戒に音を立てる。

それは甘美なほどにおいしかった。



「じゃあお礼にこれあげるよ、おいしいよ」
「まーたこんなパン食べてるんですかぁ、本当に好きですね」

パンをそのまま渡してくる先輩に臆せず、俺は噛み付いた。
抹茶の香りがふっと舌をとかして。
俺の目の前には、皐月先輩がいる。

先輩のことも、こんな風にだいたんに噛み付けたらいいのに。
弱虫な俺にはきっと一生できないけど。
こんな風にやわらかい表面に、歯を立てて。

俺からパンを受け取った先輩は、同じようにかぶりつく。
俺の食べたあとの歯形を、先輩は器用に消していく。
しゃくしゃくと、かりかりと。

皐月先輩はそうやって、俺を食べていく。
こころもからだも、しゃくしゃくと、かりかりと。
きみどりのクリームが、皐月先輩の口に吸い込まれていく。
俺の中身が、先輩の舌を伝って。

このままこうして、とけてしまえたらいいのに。
現実に戻ることもなく、ただ皐月先輩の舌にすくわれて。

気づいたら、皐月先輩の華奢な肩に手をかけていた。
皐月先輩の驚く顔が、横目に見えた。
少しだけ怯えたような、驚いたような声がして。

俺の中で、何かが、ぱんと弾けた。


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