「ここ、ここ、ここ」
「川…?」
「うん、ちょっと座ってみて」

制服姿で座り込むと、そこは少しあたたかかった。
ぽかぽかと日が照っていた日中とは違う。
でも、すごく素敵な場所だった。
川はきれいだし、ここから見える葉桜はとても初々しい。
皐月先輩はいそいそと水筒を取り出す。
そこからお湯をそそぐと、銀のなつめを取り出した。
抹茶のはいっているちいさないれもののことだ。

「え、これ皐月先輩のなつめ?!」
「うん、昔お葬式かなんかでもらった」
「持ち歩いてるんですか…?」
「馬鹿ねぇ、今日は金曜日だから持ち帰るためよ」
「この抹茶は…」
「もらってきちゃった」

悪びれもせず、さっそくお茶を点てる。
その手首はしなやかで、細い。

「はいどうぞ」
「いただきます」

自分の分も点て終わると、皐月先輩はかばんからパンを取り出した。
ふたつの白い生地が見える。
はい、とその一方を俺に渡した。

「これは何パンですか?」
「きなこもちパン、これと抹茶かなりいけるんだから」

先輩は作法を無視して、食べたり飲んだりしてる。
俺もそれをまねして食べてみる。
きなこの素朴な味が下に心地よく、ぎゅうひののびがよい。

「これ、おいしいですね」
「でしょー!! 今イチオシよ、だから普通は教えないの」
「何でですか?」
「だって他人においしいもの教えるのとかやだし、もったいない」
「俺は?」

馬鹿だな、犬島恭太郎。
お前はまたそうやって、皐月先輩を縛ろうとする。

「恭太郎は、お茶仲間よ」

真顔で言う先輩が、なんだかとてもかわいかった。
だから俺はまた、顔が悲しくなってしまうんだ。

「恭太郎、まゆげハの字よ」
「すみません」
「もしかしてお茶仲間やだった? 我ながらネーミングセンスないとは思ったのよ」
「そういうわけじゃないんですけど」
「あ、じゃあ、茶レンジャーね、あ、なんかあんまり戦隊ものっぽくない…」
「だから…」
「あ、それなら、きみどりの会、いいわ、古っちい感じが」


「きみどりの会…」
「そう、あたしと恭太郎がメンバーよ」

きなこもちパンをほおばって、握りこぶしをふる。

「あたしたちは、きみどりの会」
「はい」
「基本活動は茶室でまったり」
「はい」
「それでね、またここでお茶とか飲んだりするの」
「はい」
「たまには遠出もしようね」
「はい」

うれしそうな先輩の顔に、きらきらした瞳が動いている。
それを近くで見ていられるなら、いいかな。

とってもとってももどかしいけどね。


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