私たちは席について、ふたりともお茶を飲んだ。
同じタイミングでペットボトルをおくと、なんだかしんとしてしまう。
私は前を向いたまま、話し出した。

「最近、寮生活はどうさ」
「どうさって言われても、ただの2年目だしね」
「そりゃそうだけど、なんか事件はないわけ?」
「事件なんてあったほうがヤバイから」
「てか本当に焼けたよね」
「まーね、部活やってんだからしょうがないでしょ」
「でもさ、私も負けじと焼けてんだから、ほら」

和馬の伸ばした腕に自分の腕を並べてみる。

「うわ、これ女としてどうなの、さとる」
「そ、そういうことは言わないでくれるかな、君」

私が怒って顔をあげると、目の前には和馬の目。
ふたりの動きが、止まる。
――こんなにきれいな目をしてるんだ、君は。
私は一瞬だけ、常に瞳に持ち続けている緊張感を解いていた。
和馬は一瞬、おどろいた顔をした。
はっとして私は、思いっきり目をそむけてしまった。

「焼けてんだからしょうがないだろ」
「そうだけどさ、でも私のほうが焼けてないでしょ」
「まーどっちでもいいけどね」

和馬も正面を向いて、私から目を離す。
私たちの間に、ぎこちない空白が訪れる。



映画のストーリーは、愛する人のために命をなげうった男の人の話。
私はいたるところで泣いてばかりいた。
そんな私の姿を時々和馬が見ていたなんて、知らなかった。



「泣きすぎちゃった…」
「おつかれ」
「君は泣かなかったの? 冷血ー」
「あのね、さとるに言われたくないね」
「何さ、感動してたんだよ映画に、私は」
「はいはい」

ぐったりした体をエスカレータに乗せて、私は和馬と話した。
和馬は私を見て少し恥ずかしそうに言った。

「俺ってば偉いね」
「何で」
「だってさとるが泣いてるとこ、なるべく見ないようにしてたんだよ」
「…ふーん」
「でも結構泣いてたけど」
「それって何、映画中に私のこと見てたの?!」
「違うよ、たまに視界に入っただけ!!」

あせったみたいに言って、そっぽを向く。
なんだそりゃ、恥ずかしいのは私よ。

私たちはまっすぐ駅に向かって歩いた。
くだらない話をして、たまに笑ったりして。
プラットホームについたばかりの遅発の電車にのりこんた。
私たちは涼しい冷房に目をつぶってみたりした。

「ねぇ」
「何」
「馬鹿」
「…また、そうやって」
「でももう慣れたでしょ」
「うん、もうね、さとるに馬鹿って言われてもなーんも思わない」
「馬鹿馬鹿馬鹿」
「…お前がな」
「もっぺん言ってみな」
「すいませんでした」

「ねぇ」
「だから、何」
「あさってうち帰って来てよ」
「…わかった」

私たちの間に、意味深な空気が流れる。
姉と弟の、意味深で不思議な空気。
私はいつまでたっても、この静寂になれないのだ。


NEXT?