私たちが兄弟になったのは、ちょうど去年のこのぐらいの季節。
私はその日のぴんとしたひまわりを覚えている。
私が家に帰ると、そこにいたのは私のおとうさんと女の人。
一生懸命思い出そうとしていると、おとうさんは少し緊張した面持ちで言った。
「おとうさん、この人と再婚しようと思うんだ」
私はあまり驚かなかった。
あぁついにこんな日が来たかと思っただけだ。
私はまぬけに「うん、わかった」とうなづいて自分の部屋に歩いて入った。
私が扉を閉めるのを、おとうさんと女の人が気にしているのを肌で感じた。
私はゆっくり、いつもどおりを装って閉めた。
がちゃん
しばらく私はぼんやりとクローゼットを見て立ち尽くした。
それに気づいて、私は急いで制服を脱ごうとした。
そこで後ろから誰かに止められた。
「おいこら、ここで着替えるなよ」
聞き覚えのある声がして、私ははっとしてふりかえる。
そこにいたのは、同じく制服で居心地悪そうにしている和馬だった。
「君、どうしてここにいんの?」
「お前…覚えてないのか」
―――あの女は、俺の母親だ。
私はその言葉を聞いたときに、すっと何かが胃のあたりに落ちるのを感じた。
小学校のころ、あの人を見た気がする。
それは授業参観だったり、それは運動会だったり。
和馬の母親は、PTAの会長さんだった。
「私と君が、家族になるの?」
「…そうなんじゃないの」
「じゃあどっちが上になるの、君?私?」
「…さとるじゃないの」
「なんで」
「さっきかあさんが言ってた…お前4月生まれだろ、俺8月」
「知ってる」
「は?」
知ってるよ、君の誕生日くらい。
私はそう思ってかばんを見た。
「知ってるよ、馬鹿」
「ちょ、さとる? …何泣いてんだよ…」
「知ってるってば、馬鹿、知ってるよ」
「いた、ちょ、やめろよ」
私は和馬の制服をつかんで離さなかった。
和馬は困ったみたいに、私の手をそっと引き剥がそうとした。
私は絶対に顔を上げなかった。
「私が…私が和馬のおねえさんね」
「そうだよ」
ったく、突然泣き出して、頼りねぇ姉貴だよ。
和馬はそう言って、私を見ようとはしなかった。
私は和馬が差し出してくれた、花柄のハンカチに顔をうずめていた。
「ねえさん…ねえさんか」
「そうだよ、俺のねえちゃんだよ」
「和馬は弟か…そうか…」
「…さとる、大丈夫?」
「大丈夫だよ、私は君のハンカチが花柄だってことにウケてるだけだよ」
「なっ…それはかあさんのなの!!」
「ぷっ…男子高校生が花柄…ぷぷーっ」
「ちょっ、何笑ってんだよ、返せよ」
私たちの関係が変わったその、決定的な日。
私は和馬から借りたハンカチを洗ってアイロンをかけて終了させた。
NEXT?