私はまた、待たされている。
今日の駅は、数年前に改装されてこぎれいになっている。
私はミュージカルの看板によりかかってため息をついた。
イヤフォンは今日は、ドラマのサウンドトラックを流している。
すごくきれいなストーリーを、私は少し思い出す。
瞳を閉じて、私はまた意識を曲に流した。

不意に目の前で手をふられて我に返る。
手の平が私の顔を覆うように開かれていた。
その手をすっとひっこめて、曖昧な顔をして私を見る。

「和馬」
「ごめん、本当ごめん」

和馬はまちあわせの時間を間違え、20分遅刻してやってきた。
私は少し腹が立ったので、黙って和馬の肩を突き飛ばす。
和馬は本当に曖昧な表情で私を見る。
その、あまりにもこどもっぽい顔。
私の眉毛だって、ハの字になってしまうじゃないか。

「なんで遅刻すんのよ」
「だって、昨日は朝早くて…」
「だったら早く寝るぐらいしなさいよ」

ずんずん進んでいく私のあとを申し訳なさそうについてくる。
こういうところもこどもっぽい。
私はしばらく和馬の言い訳を聞いてやって、許してあげた。
和馬はしばらく私の不機嫌面につきあってくれた。

「こんだけ私をまたせたんだから、償ってくれるんだよね」
「なんだよそれ」
「彼女の話してよ、私そればっかり楽しみにしてきたんだから」

和馬は私を見ないで、少し顔をうつむけた。
私はその和馬の方に首を傾けた。

「もう彼女じゃないんだよね」
「え…」
「てか、彼女じゃない、別れたの」

私は目を見開いて、和馬の袖をひっぱった。
和馬は驚いて私から少し離れる。
私はその動きにも、また目を見開く。

「どうして、別れちゃったの?」
「うん」
「本当に?」
「うん」

「ふられたの…?」
「いや…」
「ふったんだ」
「そういうわけでもないけど…」
「はっきりしなさいよ」

こうやってなかなか話を進めない、和馬の扱いにくいとこだ。
私は和馬を追い越して、映画館への道を早足で歩いた。
和馬はまた、黙って私の後ろをついてくる。


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