「もしもし和馬?」
「あーそーだけど」

和馬は寝起きみたいな寝ぼけた声で電話に出る。
きっと部活がきつかったりなんだりで、寝てたんだと思う。

「本当にごめん…」
「あーいーよ、気にしてないよ」

和馬は、ああそんなことかみたいな言い方だ。
本当は結構腹を立ててたりするんだけど、言わない。
あんなに切れ性だったのになぁ。
私はとにかく謝って、和馬の機嫌をとった。

「さっきまで寝てたでしょ?」
「うん、だって部活つかれんだもん」
「のんきだね」
「まぁね」

私は家の前の公園のベンチに座っている。
家から携帯で電話するのは、全部筒抜けでいごこちが悪い。
だからいつも、和馬と電話をするときはここでする。
夜の公園は、橙色の証明がぼんやりとついていてなんだか違う。
夏には夏の、冬には冬のにおいが濃くなるのだ。
私はそんな公園で、ゆらゆらとゆれながらしゃべるのだ。

「なんか申し訳ないから、映画でもおごろうか」
「えー別にそんな気にしなくていいよー」
「いや、私の気持ちがおさまらないから」
「ふーん、じゃあよろしく」

今日の和馬はとってもぼんやりと無気力だ。
何かあったのか…たぶん、疲れているだけかな。
和馬は最近宣伝が多い日本の映画を選ぶ。
私もそれには興味を持っていたから、賛成した。

「そういえばさー、俺後輩にへんなこと言われたの」
「何それ」
「なんか、ふわふわしてるんだって」

ふわふわ。
私はその言葉があまりにもぴったりすぎて、笑ってしまった。
ふわふわ、それは和馬のふるまいそのものみたいだ。
もう図体も大きい(はず、最近は会ってないもの)なのに、なんだかこどもっぽい。
それは幼稚とは違って、とてもやわらかい、軽い感じだ。
ふわふわという言葉は、くせっ毛でこどもっぽい和馬にぴったり。
私はしばらく、笑い続けた。

「つぼにはいったんでしょ」
「うん」
「笑いすぎだよお前…」
「ふふ、あはは」

私は手元に置いた水色のソーダみたいなジュース缶をひとさしゆびで押してみた。
缶はとっても軽くって、つめたくて硬い。
私は最後まで、ふわふわに魅せられて笑っていた。

おやすみと言い合って電話を切ると、ベンチの上で私は伸びをした。
和馬との映画、楽しみだ。
私は缶を宙に放って、それを思いっきり蹴り上げた。
軽い缶は、木々より高く夜空に舞い上がった。


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