「最悪」

私は思いっきりそう口にして、手をおでこに押し付ける。
箒が落ちて、足元にぱらぱらとほこりが舞った。
湿気てるわりに、君達はずいぶんと活動的だこと。
私の言葉にうながされるように掃除当番の子がぼやいた。
「あいつマジで保健室の先生か?」
「だよねー、生徒こき使いすぎ」
「保健室の先生って、もっと優しいもんじゃないの?」
同意が同意をよんで、みんなくちぐちに不満をはいた。
今日は保健室の掃除はないはずだったのに
(用務員さんがやってくれるので掃除は週はじめとおわりだけなのだ)
保険医がみんなを集めて掃除させているのだ。
さっさと帰ろうと思っていた帰宅部たちは不満たらたらだ。
でも私から言わせれば、この目的のない連中はそのぐらいすべきだと思うけど。
そんなことは口にしないで、私はベットに腰掛けた。
「あ、聡ちゃんさぼりかよ」
「違うよ」
「さぼーさぼー」
「うるさいな」
私はこの仕様もない連中と一緒にいることにあきれているのだ。
なんてことも口にしないで、私はベットに横になる。
スカートのすそがまくれたけど、気にせず横になる。
保健室のシーツはいつでも白くて排他的な感じがする。
でも、そこにのせてあるブランケットはとてもやわらかい。
私はそんな不思議な空間が好きで、保健室には親しみを持っている。
「聡ちゃんマジ寝モードじゃん」
「おきないんじゃないの」
「はは、ウケるんだけどー」
君達の言語の少なさにウケるんだけどー。
私はそうほくそえんで、ベッドの下に革靴を落とした。
保健室の厚いガラスの向こうの雨音が、はっきり聞こえた。

ポケットから突然微動がやってきて、私は跳ね起きた。
目の前の風景にぼんやりとして、自分が何をしていたのか思い出す。
今、何時。
時計を探すと、長針はちょうど12時を、短針は4時をさしていた。

「最悪だ」

私はベッドに倒れこんだ。
そしてもぞもぞと振動の主を探し出して開く。
そのままの状態で私はキーを打った。
[ 急に部活はいった。ごめんいけない、本当ごめん。]
まったく、私ってニンゲンは最低だ。
マジ寝モードじゃん、ウケるんだけどー、だ。



しばらくして、和馬から返信が来る。
[ いいよ、全然気にしないで(><) ]
また例の顔文字をくっつけている。
私は無性に申し訳なくて、次のメールであとで電話する旨を伝えた。

外の雨は、もうやんでいた。
私は水色の布地に紫の円の模様が入った傘を閉じる。
制服に少し、点々と水滴のあとが残った。
私はみずたまりをとびこえて、家まで走って帰った。


NEXT?