電話を切ってベッドに寝転ぶ。
タオルケットにくるまって時計を見るともう11時。
私はためいきひとつだけついて、寝返りをうつ。
私たちが姉と弟になった日も、こんな夜だった。
雨が降りそうだなと思った。

私たちが出会ったのは、小学生のとき。
当時はがり勉で運動音痴のもやしっこの私。
体を動かしていないと死んじゃうまぐろみたいな和馬。
そんなふたりが仲良くゆくはずもなく、けんかばかりしていた。
けんかはたいてい和馬がかんしゃくをおこしてはじまる。
うわばきをふんだとか、テストの点数自慢するなとかそんな話。
私だって負けん気は強かったから、負けじと口や手を出す。
あるとき、私は許しがたい言葉をはかれて平手を打った。
和馬は一瞬ほうけたように目をしばたかせて、泣きだした。
私のあのときの、胃がしずむような感覚を今でもよく覚えている。
だから和馬とけんかするのは、なおさら嫌いになった。

「さとるとけんかするの、一番苦手だったんだ」

和馬もそんなことを電話で口にした。
そのときの和馬の表情は見えなかったけど、きっとまゆげはハの字。
そんなことを思いながら、私はいつしか眠りについた。
眠りにつく寸前に、雨音がした気がした。



「今日は絶対雨だと思ってたんだよね」

昼ごはんの時間に、お弁当を開いているときにそう言った。
由利と愛美はおどろいたふうもなく、そのままの動作を続けながら言う。
「天気予報で言ってたしね」
「でもうち、傘持ってないや」
「馬鹿」
私はそういいながら、お弁当のおひたしをつまんだ。
下味がきいている、口の中できゅっと味が広がる。
和馬はちゃんと傘を持って出たかな。

「聡ちゃん、最近よくぼけーっとしてない?」
愛美が不思議そうに私の方をむいて言う。
「そんなことないけど」
「いや、最近は多いね、かなりあるね」
愛美はにまにま笑いながら、はしで梅干をつつく。
由利はもくもくとごはんをつまんでいた。
私はそんな由利を横目に、おひたしをもうひとくちつまむ。
「まぬけの愛美に言われたくないんだけど」
「まぁそういいたい気持ちも分かりますけどね、本当にぼけっとしてるよ」
私は腹が立ったから、愛美の顔を手のひらではじいた。
愛美はひぇっと悲鳴をあげて、おでこをさする。
「なにすんだよー」
「愛美うるさいんだもん」
「図星なんだ」
きっとして見ると、由利はさっきと同じようにもくもくとごはんをつまんでいる。
私もだまってごはんをつまんだ。
由利はいつだって何かを見抜いているみたいでちょっとこわい。
私は一生懸命閉心術に集中した。

お弁当を食べ終わると、私たちはめいめい好きなことをした。
愛美は次の授業が単語のテストなので、単語帳を開いている。
由利は愛美の貸した雑誌を、お菓子を食べながら読んでいる。
私は昨日買った、表紙の美しい本を読む。
小説の中に出てくる、白玉あんみつがとてもおいしそうだ。
「ねぇ白玉あんみつ食べたい」
「あー、いいねー」
「行こうよ、放課後暇でしょ?」
「うち今日終番だし」
「うちもよりたいとこあるし、どうせ聡ちゃんの家の近くでしょ、遠いよ」
「また今度」
私はなんだか気分が下がってしまって本に目を戻した。
そして思いついたみたいに携帯を取り出す。

To : 山内和馬
From : 武中聡 

今日の放課後暇?

メールの返事は、5時間目の終わりごろにきた。

[ 暇だけど、何で? ]
[ 白玉あんみつが食べたい。 ]
[ いいよ、どこで? ]
[ お店は知ってるから、駅で待ち合わせしよう。 ]
[ いいよ(><) ]

和馬は、この顔文字が好きなのかよく文末にちんまりといれてくる。
こんな顔をした和馬を想像して私は笑ってしまう。
私は待ち合わせの時間をメールして、携帯を閉じる。

そういえば、和馬に会うのは1年ぶりかもしれない。
気づくと外の雨は、どんどん強くなっていた。


NEXT?