僕と涼夏はまた同じバス停で待ち合わせしてバスに乗った。
涼夏は少し緊張したみたいな顔で、僕を見ない。
僕は誰もいない座席、ひとりぶん空けて涼夏の隣に座る。
涼夏はしきりにかばんを持ち直したり、読んでいる本を閉じたりした。
いつもの涼夏らしからぬ行動ばかりで、僕は心配だった。
バス停を降りた後も涼夏は無言で、僕は思い切って涼夏の前に立ってみた。
涼夏は驚いた顔も見せずに、僕の手を握った。
そして少しだけ優しい目をして僕をつれていく。
僕はなんだか不思議な気持ちで、涼夏のあとを手をつないだまま歩いた。
何度も来たロビーに座って、僕達は一本だけ買った缶ジュースを飲んだ。
涼夏が紅茶がいいというので、僕は甘い甘いミルクティを買った。
涼夏は缶に顔をぴたとつけて、目をつぶった。
その目がなかなか開かないのが気がかりだった。

おじさんが僕達の前に立っているのに気づいて、僕は涼夏より前に出た。
涼夏はゆっくりと顔を上げて、挑戦的な目をして彼を見る。
おじさんは少し不思議そうに涼夏に近づいたので、僕はさらに前に出る。
おじさんは苦笑いして、ついておいで、とちいさい声で言った。
僕達が通されたのは、森の入り口みたいに木の茂ったところだった。
おじさんは僕達をそこに通すとさっさと歩き出してしまう。
僕はあとを追うと、おじさんは振り向かずに言う。
大丈夫だよ心配するな、あいつには何の武器も持たせてないよ
だって俺があいつのボディチェックやって送り出すんだ
俺があいつと共謀してるとでも思うか?考えろ、俺はあいつがここにいることが大事なんだ
このつまらない施設の中での楽しみなんて、あいつぐらいなもんだからな
おじさんは卑しい笑いとべとべとした汚い感情を残してまた歩き出した。
僕は胸が気持ち悪くて、少しあとずさりした。

「来た」

今日はじめての涼夏の声は澄んでいて、鋭かった。
涼夏の視線の先には、ゆっくりと歩いてくる芳にぃがいた。

「研二…」
「芳にぃ」

僕は涼夏の前にたって、涼夏から芳にぃを遠ざけようとした。
何とか場を取り繕おうとして―そんなこと無理なのに―あたふたしている僕。
涼夏はひとこと、言い放った。

「研二、あたし、こいつよく知ってるから」

涼夏はその利発そうな頭をごちゃごちゃに混ぜているみたいだった。
涼夏の脳内のモニターに、芳にぃの情報をすべてたたき出している。
涼夏の目はまっすぐに芳にぃを見ている。
ありったけの憎悪はまっすぐ鋭く、芳にぃを思い切り貫いた。
今までかつて感じたことのない緊張感が、僕達を支配している。
芳にぃはとうとう耐え切れず、叫んだ。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
俺は最低のことをした俺は罪のない人を殺した俺は最低だ
俺は欲望に走った俺は人間として失格だ言葉なんかじゃ表せないぐらい汚い人間だ
貴女の言うことなら何でも聞こう俺は死ぬべきだ
貴女の手で殺してくれてもいいそのほうがいい
貴女に殺してほしい貴女の好きなだけ刺せばいい
貴女に言われたとおりに死にます死にたい
俺は 死ぬべきなんだ 死にたいんだ

芳にぃは汗をかきながらつばを吐きながら涙を流しながら、土に顔を押し付けて叫んでいた。
僕はいたたまれなくて、あとずさりしたかった。
すさまじい眼力の中で、僕は涼夏を見た。
涼夏は手にナイフを握っていた。

「言うこと聞いてくれるんだ」
「涼夏、だめだよ、やめようよ」
「聞いてくれるんでしょ、全部」

芳にぃは目を虚ろにして涼夏を見てうなづいた。
涼夏はするすると近寄って、芳にぃの顔を蹴り上げた。
宙に投げ出された芳にぃが地面に叩きつけられると、思い切り背中を蹴った。
芳にぃは苦しそうに耐えていた。

「涼夏、やめてよ、やめてよ」
「あんたあたしの言うこと聞いてくれるんでしょ、全部」
「涼夏、涼夏ってば」
「うるさい」

涼夏は僕を思い切り突き飛ばした。
そして涼夏は握り締めたナイフを高々と引き上げた。
ナイフの刃が、日光に照らされて鈍く光って
―――芳にぃの顔のすぐそばに落ちた。

「好きなようにしなさい」

涼夏は着ていたパーカを思い切り脱ぎ捨てた。

「犯したいなら犯せばいい、好きにしなさい」

涼夏は芳にぃに馬乗りになって手を開いた。
その手は天を向いている。

NEXT?