聞かないほうがいいはずだ。
僕の弱い頭で考えても、やっぱりそう思う。
それだから隠しておこうと思ってたのに。
主人には犬の気持ちがわかってしまうものなのかな。
僕の主人の目は、一度見たらそらせない。
だから僕は、ありのまま語ることにした。

僕がおじさんとあったのは、いつものロビーだった。
おじさんは僕に缶ジュースを一本渡した、一緒に手紙をそえて。
僕が帰ろうとしたところに、おじさんはそっと耳元で言ったのだ。
裏の木の並んだところに、一箇所だけ木のまばらなところがある。
建物の中をのぞける場所だ。
暇だったら今から、そこへおいで。
僕は生理的な嫌悪を感じであとずさった。
おじさんは、若いときはきっときれいだった顔に薄いしわを浮かべて消えた。

暑い夏の後半、僕は汗をかきながらそこへ向かった。
おじさんのいったとおり、そこだけ木が生えていなかった。
僕はそこからすっと顔をだして、建物の中をのぞいてみた。

誰もいない、がらんとした部屋がガラスの向こうに見える。
そこにはタバコの吸殻や空箱が置いてある。
ここは看守のいる部屋なんだろうなと、気づいた。
僕がそのままのぞいていると、誰かが扉を開けて入ってきた。
芳にぃだ。
最近会ったばかりなのに、芳にぃは少しやつれていた。
芳にぃは僕に気づかないまま、何か袋をくわえた。
女子によくモテた横顔は今も変わりなく、ほりの深さを感じる。
そしてそのまま、芳にぃはきている服をもぞもぞとゆるめはじめる。
目を凝らしていた僕は、心臓が止まるようだった。
唖然としている僕の目の前を、あのおじさんは素通りして部屋に入っていく。
そして芳にぃの口にくわえている袋を、自分の口でくわえた。
そして芳にぃに気づかれないように、僕に笑いかけた。
開けっ放しだったドアを閉じて、僕の視界をふさぐ。
ドアをふさぐ手と反対の手で、芳にぃの肩を抱きながら。
芳にぃのくわえたちいさいビニールの袋が、なんだかわかった。

涼夏は凍ったような目で、床を見ていた。
その目はきれいにすんでいて、僕はまたほおに痛みを思い出す。

「馬鹿ね」

あざ笑うようにそう言って僕から手を離す。

「からだ売ってんだ」

耳をふさぐようにして、ひざをひきよせて。

「汚らしい」

あたしの家族を殺した手で。
今は男のからだをまさぐってるの。
信じられない、汚いキタナイきたない。
見開かれた目は、今にも飛び出してしまいそうだ。
僕は後悔した、こんなこと骨の数本折られても言うべきじゃなかったんだ。
気づいたときにはもう遅くて、涼夏は立ち上がっていた。

「帰る」
「待って」
「何、うるさい」

涼夏は思い切り足を振り上げて僕を蹴り飛ばした。
床に突っ伏す僕の目を見て、涼夏は少し悲しそうににらんだ。

「その目、好きよ」

涼夏はそれから2日間、涼夏は欠かさずにしていた連絡を絶った。

NEXT?