涼夏はそうして、日々僕をつれまわした。
ふりかえった僕を突然殴ったり。
ただ無言で僕の足を蹴り続けたり。
でも突然僕のあたまをなでたりした。
そのあと僕は、思い切り僕を地面にたたきつける。

僕は毎日くらくらするあたまで帰る。
ばあちゃんは僕の部活が忙しいんだと思ってる。
お疲れ様って出してくれる麦茶がつめたい。
ばあちゃんは当然みたく、僕と涼夏の分ふたつのおはぎを皿に乗せる。
また行くんでしょ、都会の子んとこ。
僕は笑顔でそれを受け取る。

「ありがと、ばあちゃん」

涼夏は、あの廃屋に座っている。
僕が先にいないことに怒って、今日はずっと僕の背中を叩きっ放しだ。
僕は黙ってそれを受けている。

「ちゃんと会いに行ったの」

涼夏はしばらくして本題に切り込んだ。
僕は黙ってうなづいて、おはぎを差し出す。
涼夏はそれを大切そうに受け取って、ちょっとずつかじる。

「会いに行った」
「嘘 普通親族でもなかなか会えないって聞いたけど」
「芳にぃの弟についてきてもらった」
「君、そいつにあたしのこと話したわけ」
「話してない」
「そうだよね、助けなんて求められる立場じゃないもんね」

涼夏は冷ややかにそう言って、僕の水筒に手を伸ばした。
僕がお茶をくんで渡す。

「で、ご健康なわけ」
「少しやせてた ほおがこけてた」
「そう、そのまま死んじゃえばいいのに」


この前の木曜日、涼夏はここで突然僕に命令した。
俵芳和に会いに行ってこいと。
僕が唖然とする中、涼夏は平然と言ってのけた。
元気かどうか、見てきなさい。
僕はそうして、急いで東京まで行った。
芳にぃの弟の浩二に必死で頼み込んで、つれていってもらった。
浩二はすごく嫌がったけど。

あの日以来はじめて会った芳にぃはずいぶんとやつれていた。
浩二はもう、彼の顔なんて見たくないと言っていた。
芳にぃは僕に、元気か? とか細い声で聞いてきた。
芳にぃは?
俺が元気じゃ、世の中おしまいだよ。
芳にぃは依然見られないような、嘲笑をした。
それにしても、研二突然どうしたんだ。
俺に会いに来るのなんて、ごく少数どころか誰もいないぞ。
ううん、顔が見たかっただけ。

時間だ、と係りの人が立った。
僕は席から立ち去ろうとした、浩二はすでに部屋からいなくなっている。
研二、待て。
芳にぃが突然立ち上がって、係りの人を見た。
係りの人は、30代くらいのおじさんだった。
おじさんは、終わったらロビーにいなさいと言った。
僕は何のことやらわからなかった。
ただ芳にぃの声が、うわずっていた。

ロビーに座っていると、おじさんがやってきて僕に缶ジュースを手渡した。
そして、その缶の底には、紙が貼っている。
僕がそれに気づいたときには、もうおじさんはいなかった。

その紙は、手紙だった。
芳にぃからの、手紙だった。

NEXT?