もう一度バスに乗って僕達の町に戻る。
涼夏はうれしそうにビンを抱えている。
僕の手にも同じビンが、紙袋の中に入っている。
あたたかいようなつめたいような。

僕達は歩いて家に入る。
ばあちゃんが縁側でうつらうつらしているのを起こさないように。
涼夏は押入れを開けてブランケットを出す。
そしてそっとばあちゃんにかけた。
それは、とてもやさしい目だった。
この子は、本当はとってもやさしい子だ。
純粋で、不器用で、それで真っ直ぐで。
だから、誤解ばかりされて損ばかりしている。
本当に、この世を生きにくい子だ。
そんなことがわかっているのに。
僕は、さらに君を傷つけることになるんだね。

「この前のおばあちゃんのおばぎおいしかった」
「よかった、それ伝えとくよ」
「ううん、あとで伝えるよ、自分で」

涼夏は僕の部屋の学習机にビンを置き、そうして僕の机の上を見渡す。

「あ、写真」

涼夏は、透明な写真たてをつかむ。
その手は部活の名残で少し焼けている。

「この人、誰」

涼夏が指差すから、僕は、平常心を装って教えてあげる。

「芳にぃ、僕の幼馴染」
「ふぅん、にぃってことは年上の幼馴染なんだ」
「そうだよ、でも、涼夏はこの人のこと、知ってるはずだよ」

涼夏の目が、かたまった。
芳にぃがひさしぶりにうちにきたのは、夏休みに入る前だった。
芳にぃは顔がよくって、背も高くって、ちいさいころから人気者だった。
よわっちい僕はそんな芳にぃにしょっちゅう助けてもらってた。
そんな幼少期は過ぎて、大学生の芳にぃと高校生の僕。
芳にぃはちょっと都会の方の大学に通うから、今じゃあたまに会う程度。
でも、仲はいいと思う。
芳にぃはかっこつけだから、素の部分をまわりに見せたりしない。
でも僕には、いろいろとしゃべってくれる。
最近できた高校生の彼女の話とか、まわりの阿呆な級友とか。

「俺の彼女さ、年下の割りにものすっご大人なんだよ」
「へぇー、いまどきめずらしいね」
「おまけにきれいだし、でもちいさくてさー、完璧なんだよ」
「はは、それのろけ?」
「るせぇな、黙って聞いとけ」

芳にぃは笑って僕を小突く、僕は笑ってよける。

「でもさ、なんかものたりねぇんだよな」
「ふーん、ぜいたくな悩みだね」
「そうなんだよ、そう 贅沢な悩みだよな」

なんかおもしろいことねぇかなー。
そう言った芳にぃが、夏休み前にきたときに言ったのだ。

「お前、どっちかっていったらサドか?」
「まさか…違うよ」
「だよなー、でもきっとわかってくれると思ってさ」

芳にぃは楽しそうにゲームを手渡した。
これ、やってみろよ。
そうして芳にぃが帰ってから、僕はそのソフトをパソコンにいれてみた。

それは、たくさん出てくる少女をかたっぱしから無理矢理暴行するものだった。
やりながら僕は、どんどんはまっていった。
でも、さっさと全クリしてからは、ちょっと気持ち悪くなった。
僕はそのゲームをそっと机の奥にしまいこんだ。

「どうだったよ、研二」

興味深そうにゲームの感想を聞いてくる芳にぃに僕はあいまいに笑った。
確かにやっているときはどんどんはまっていたのだから。
思い出すと気持ち悪いけど、でも、楽しかったんだ、僕は。
芳にぃはそんな僕に、笑いながら言った。
まあ俺もはまってさー、でもやり終わるとなんか居心地悪いよなー。
あれ、興味本位で買ったけどお前にやるわ。
僕は拒否して芳にぃにそれを返した、芳にぃは受け取った。

「まあいいや、ところでさ、ちょっと面白いゲームなんだけど」

僕の目の前に、二枚の写真をさしだす。
そこに写っていたのは、僕と同年代の女の子ふたりだった。

「もし、このゲームと同じようなことするとしたら、どっちにする?」

唖然とするような質問をする芳にぃに、僕は目を見張った。
馬鹿、もしもだよ、暇つぶしだよ、何、俺がマジでそんなことやると思ってんの?
芳にぃは笑ってひとりを指差した、その子はとてもかわいい顔をした子だった。
この子はさー、とろくてちいさくてかわいいんだよなー。
いじめたらきっとかわいだろうぜ、芳にぃはそう言って笑う。
でも僕はもう一枚の写真を手に取る。
あぁ、そっちの子もいいだろ、なんか正統派だろ。
その子はすっごい完璧主義で、努力家で、性格がすげぇきついんだって。
お前ならどっちにする?
僕は迷わずに、その子の写真を差し出した。
ふーん、そうか お前はこっちなのか。
芳にぃは笑ってその写真を受け取った。

「お前の意見、参考にさせてもらうわ」

それは僕と芳にぃが最後に会話した言葉だ。

NEXT?