行き先を聞かない研二をひっぱって部屋に押し込んだ。
研二はなされるがまま、床に這い蹲る。
その肩をかかとで蹴り上げて壁に押し付ける。
研二は一瞬ひるんだみたいに息を呑む。
そして黙ってあたしを見上げている。
「あたしのこと知りたいんだよね」
研二はちょっと考えて、うなづいた。
あたしはその瞬間に研二の顔の横の壁、足をたたきつける。
研二がひるんで目をつぶった。
「本当に知りたんだよね」
「…うん、知りたい」
「裏切ったら、どうしてくれるの」
あたしは精一杯足をつきつけて、研二の顔をつつく。
この犬を、あたしは信じていいの。
――もう、裏切りはいやだ。
研二はあたしを強く見つめて、言った。
「僕は君を裏切らない、君のいうことなら全部守るよ」
「じゃあ君、あたしが何命令しても聞くの」
「そうだよ」
「じゃあ、あたしの足、きれいにしてよ」
研二は目を見張ってあたしを見てる。
だけど、あたしは冷徹を貫き通した。
あたしの全てがかかっている、この賭けに負けるわけにはいかないから。
タオルを持とうとした手を蹴り上げて、あたしは足を差し出した。
研二はそっとはいつくばって、あたしの足をそろりとなめる。
その顔はただ、あたしの足に向いていて、その舌は、あたしだけを味わってる。
なまあたたかいざらざらしたものが、あたしの足を這っている。
経験のないあたしには、それがいつしか快感にしか感じられなかった。
あたしは研二に向かって、唐突に話し出していた。
「女に言われてそこまでする 君はただの変態だよ」
「下僕なんだよ君、人間じゃないんだよ、こんなことおばあちゃんに話せるの」
「部活の人だって君がこんなんだって知ったらきっと離れてくよ」
「どう、おいしい あたしの足なんてなめて 本当に気持ち悪いよ研二」
罵声の全てにちょっとずつとまりながらも、研二はあたしをなめ続けた。
今研二の脳内には、きっとたくさんの後悔と羞恥心がめぐってる。
それなのに、研二はあたしをなめ続けている。
あたしはどうしても許せなくて、研二の顔を突き飛ばした。
大きな音を立てて、研二は倒れて動かなくなった。
「…どうして…どうしてそこまでするの」
「…僕は、君の犬だから…」
「馬鹿じゃないの…信じられない…」
あたしが前髪をかきあげると同時に、研二は言った。
「僕、死ねるよ」
「…それ…どういうこと」
「僕死ぬよ、涼夏を裏切ったら死ぬよ」
「冗談言ってんの」
「違うよ、本気だよ 君が、僕が裏切ったと感じたら…」
「…どうするのよ」
「僕にひとこと『死ね』って言ってくれればいい」
――― そうしたら、僕は笑顔で死んでいくよ
研二の笑顔に、あたしは揺らいだ。
その強い思い、君はどうしてあたしに向けているの。
ちょっとだけ、あたしの軸がぶれる。
研二によって少しずつずれていたあたしの軸が、震える。
それを条件に、あたしは過去の話をした。
厳重に密封した、あたしの過去を。
NEXT?