彼女のよく遊んだという公園の端にある飲食店でお昼を食べた。
店のおばさんがやさしくて、ふたりにあんみつのサービスが出た。
雪弥は嬉しそうにあんみつのぎゅうひをとっておく。
俺は雪弥のガラスの中にぎゅうひを入れてやる。
雪弥は驚いたが、ぺこりとお辞儀して、俺のガラスの中にさくらんぼを入れた。
ふたりはそのあとも黙ってあんみつを食べる。
「ここが、鏡子さんの住んでたマンションですか」
「ちょっと古びてるね」
白いかべに少しだけ蔦がのびている。
住民は少なく、がらんとした雰囲気を出していた。
201号室の前で、ふたり立ち尽くす。
管理人は見つからず眺めるだけになった。
ドアの右端、さびた傷のついた金具。
ここが彼女の暮らした場所。
「いったいどんな暮らしをしてたんでしょうか」
「父親も母親も、いい人だったよ」
「鏡子さんに兄弟は?」
「弟がひとり」
雪弥は深呼吸した。
「じゃあ4人は、素敵な家族だったでしょうね」
「そうだね」
ふたりは笑顔になった。
雪弥の隣にいると、普通に笑える自分がいる。
ふと今、そう確信した。
「では中学校に行きましょうか」
「うん」
マンションから10分まっすぐな道を歩き、中学校の校門を見つけた。
閉まった校門を、雪弥は軽々とまたいで入る。
俺もそのあとに続いて入る。
ラッキーはここで留守番。
「ずいぶんとおおきな学校ですね」
「そう?普通だと思うけど」
「あたし中学から私立で、城崎女子は敷地もないもので、慣れてないんです」
「そっか」
雪弥の生い立ちが、それなりだということを思い出す。
かすかに世慣れしていない雰囲気も、そこからだろうか。
いや、違う。
雪弥の場合、そういう性格なんだろうと、思い直す。
だから、あんなことになったんだろう、とも。
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