そのあと一週間、俺と雪弥はちびちびと旅行計画を立てていた。
雪弥は俺のパソコンをかちかちつかって時刻表を開く。
それを覗きこんでは考えて、図式を書いて予定を立てる。
俺はそれを覗き込んで、わからないときは質問する。
雪弥は俺に目を向けずに答えて、また黙々と作業に戻る。
俺はその隣で思い出したことを書いてみたり、じっとしていたり。
足を崩した雪弥と、体育ずわりの俺。
ラッキーは俺と雪弥の間をうろうろしている。
ゆるい時間が過ぎていく。

「あの…雪弥、放課後予定とはないの」
「あたしだって塾はありますよ」
「じゃあ、いいの? ここにいても」
「平気ですよ、あたしはあたしなりに予定組んでますから」
「ふーん」
「ここにくるのを最優先で考えてるんで、気にしないで下さい」

こっちは見ないけど、雪弥はそう答える。
俺はそのひとことにひどく安堵した。
そして、自然に笑顔になる。
いつもの、あの、いやしい笑顔じゃなく。

ラッキーが俺をひっぱっていく、雪弥の方に。
そっとすりよっても、雪弥は何も言わない。
身を硬くしても、少し緊張した顔になっても。
だから俺も、緊張しながら何も言わない。
ふたりの間にある沈黙は、やさしい時間だった。

たまに雪弥はお菓子をつくって持ってくる。
夕方の畳の上で、白い皿にのったチョコバナナのブラウニー。
やすっぽいインスタントの紅茶、傷ついたティーカップ。
雪弥の静かなフォークの動き、かちゃんとなる金属音。
雪弥の伏し目の先にラッキーがいる。
そして遠慮がちに俺を見る。
俺はフォークを口にくわえたまま、雪弥の視線を浴びる。
雪弥は、ちょっと驚いてまた伏し目になる。
窓の外、からからと子供の遊ぶ声が遠くに聞こえる。
静かな時間、落ち着いた時間。

俺の中に、ひさしくなかったあたたかさがしみこんでくる。
雪弥のあの、つめたさでさえ、心地よかった。

「雪弥」

雪弥と駅まで歩く田んぼの道、俺は呼びかける。
夕方の田んぼは暖色にそまる。
無言でふりかえる雪弥に、俺はまた彼女を重ねている。
ラッキーが俺の足元でとびはねている。

「明日、10時に駅で」
「はい、わかってます」

雪弥はそう言って、また歩き出す。
俺と雪弥の距離は、どんどん広がっていった。
足元でラッキーが首をかしげた。



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