ぺこりとお辞儀して、もそもそと動く。
雪弥がちいさいことに、いまさら感心する。

「あの、お茶っ葉ありますか」
「あ、あの、インスタントの紅茶なら」
「じゃあいれましょうか、あたし一応ケーキ買ってきたんです」
「あ、どうも」
「あの、フォークとお皿は」
「そこの棚に、多分あると思うけど」

ちょこまか動いて、手際よくことを進めていく。
きっとこんな感じでノートも、あのことも、進めたんだろう。
てきぱきと、はきはきと、無心で。

「ショートケーキがいいですか、チョコですか」
「じゃあ、ショートケーキ」

無言でケーキを食べ始める、沈黙が続く。
雪弥は一点を見つめて食べ続ける。

「あの、大丈夫」
「はい?」
「なんか、調子悪いのかと思って」
「あ…癖なんです、目がうつろになるのは」
「…ごめん」
「前にも言われました、だから気にしてません」

「はるいち君は、本当は…ずいぶんと遠慮される方なんですね」
「…そう、かな」
「はい、出会ったときはちゃらちゃらして、そういうタイプなのかと」
「…まぁ、つくってたって言えばそうかも」
「逆にあたしの方がずうずうしいタイプなので」
「そうかな、俺は別に気にしないけど」
「…それは、ありがたいです」

「水島鏡子さんは、おいくつだったんですか?」
「18…高3だった 睡蓮女子の」
「…あたしの城崎女子とは偏差値にずいぶん差がありますね」
「城崎女子だって全然いいじゃん」
「いえ、大差です それで、水島さんは部活とかは?」
「華道をやってた 学校では学級委員をしていたみたい」
「自推他推は」
「他推だったと思う 決まった日にうんざりしてそう言ってた」
「信頼されていたんですね、責任感のあるはきはきした方ですか」
「見た目も良くて、そのあたりでは有名な美少女だったらしい」
「当時はるいち君はいくつだったんですか?」
「えーっと、5年前だから…13歳」

ふと見ると、雪弥はちびちびとメモをしていた。


「メモしてるんだ」
「はい、何かあったら役に立つかもしれないと思って」
「そう、それはそうかも」
「これでいろいろと考える範囲も限定されてきますから」
「賢いね」

「ところで、はるいち君については全然詳しくないんですけど」
「え?」
「一応、はるいち君のことも知っておきたいんですが」
「…」
「あの、別にくわしく聞かないんで答えてください」
「はぁ…」

油断ならない子だ。

「名前は葉月春一、年は18、血液型は?」
「AB」
「あ、偶然ですね、あたしもです ビジネスのパートナーとしては良し」
「…そう」
「特技は?」
「と、特技?必要あるのかな…器械体操、かな…」
「テニスもされるみたいですね、えとじゃあ趣味は?」
「テニス? 何でそんなこと言うの?」
「あ、そこにテニスのラケットケース見えたんで、で趣味は?」

本当に油断ならない子だ。
俺は少しだけ開いた押入れをしめながら答えた。

「趣味は…犬の散歩」
「犬? あ、あー!! こんなとこに隠してたんですか?!」

閉めた押入れをすぱーんと開けて、雪弥は瞳をくるくるさせた。
その動きの早いこと…。
驚いた俺の子犬、ラッキーは少しちいさくなった。

「お、驚かせてすみません、あたしはあなたの飼い主の…」
「…飼い主の?」
「…は、はるいち君に脅迫されてる、助手の、宇佐美雪弥、です」

きっぱりはっきりそう言って手を伸ばす。
ラッキーは少し躊躇して、それから雪弥の手をなめた。
それをじっと見て、雪弥はちょっとずつ近づいていく。
ラッキーは雪弥の手をなめつづけた。
雪弥の目が、少しずつ、少しずつ、とけていった。
普通の女の子の、何も背負っていない、無邪気な瞳に。

そんなところが、ふいに彼女と重なった。



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