「あの…これって、誰のスケジュールですか?」
「…よくわかったね」

同じ公園で会って、聞きにくそうに雪弥は聞いた。
俺は少し感心しつつ、警戒して答える。

「なんだか、あたしと同年代の人のスケジュールっぽくて」
「…」
「しかもこの人の会う人会う人女ばっかで、どこの女たらしかと」
「女たらしじゃなくて、それ女のスケジュールだから」
「…やっぱそうですか、鎌かけてよかったです」

鋭い女だ、いい子だ。
雪弥に渡したのは俺の取材記録や資料だった。
とある女の、おおよそ1ヶ月の動きの資料。
地道に聞き出した取材のメモと、その他調べたものをすべて渡した。
信じていたわけじゃない、コピーはとってある。

「これ、一応カレンダーにまとめたものと」
「へぇ」
「あと、箇条書きの表みたいのにしてみました」
「わかりやすい、優秀」

全部手書きで書かれたノートに目を通す。
几帳面でかたい字が延々と並んでいる。
取材資料とくらべると、ずいぶん読みやすい。
甘ったれで馬鹿みたいに丸い字や汚い字を書く女とは違う。
それだけで、俺は自分の獲物が正解だと思った。

「それで…この人はどうかされたんですか?」
「殺された」
「…他殺ですか」
「自殺だとは思えない状況だったから」

ずいぶんと深いものに首を突っ込んでしまった。
そう思っているのだろうと顔を上げて雪弥の顔を見る。
しかし彼女はまた、重い瞳でじっとどこかを見ている。

「犯人は?」
「あ…まだ、つかまってないけど」
「それで、はるいち君は犯人をつかまえたいんですか?」
「まぁ…」
「…あんまりそのつもりなんですか?」
「警察につかまえられなかったし、簡単に俺がつかまえられるとは…」
「ですよね…じゃあ何のために?」
「その人の人となりを、俺なりにもいちど検証しようと思って」
「…彼女の名前は?」

久しぶりに、言う。
彼女の名前。

「水島鏡子」

その名前を言うと、俺は変な気持ちなる。
よじれるような、泣き叫びたくなるような、
熱いお湯に入ったみたいな、そんな、気持ちに。

「あの…はるいち君にとってその人は何なんですか?」
「うーん、好きだったのかな…」
「…よくわかんないけど、ごく親しい人だったんですね」
「そうだね」
「他殺って…殺害方法は?」
「刺殺、致命傷は腹部の傷だって刑事さんが」
「あの…暴行されてたとかは」
「なかったみたい、それなりにきれいなままの死体だったよ」
「そうですか、それは何よりで…って、そうでもないですけど」
「溺死ではなかったから、不幸中の幸いだよね」
「はい…」

重苦しい雰囲気になる。
それでも雪弥はそのちいさな頭の中で必死で動かしている。
そのたくましさは、俺にはなかったものだった。

雪弥の瞳が重くなる、暗くなる、冷たくなる。
俺はその中で何が行われているのか知らない。

「あの…犯人探しには無理があると思います」
「うん、俺もそのつもり」
「だから、はるいち君のいう、人となりの検証を手伝います」
「…よろしく」
「それで、その…」
「?」

「手伝いが終わったらあたしのしたこと、全部話しますから」
「…?」
「あ、あたしのしたこと全部話しますから、それで全部忘れてください」
「…わかった」
「…ありがとうございます」



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