「俺ね、探偵みたいなことしてるんだ」
「それってあの、いかがわしいもの探してるんですか?」

苦笑、雪弥は露骨な表現がお好きなようだ。
俺はそんな雪弥がちゃんとついてきているのを確認する。
そして細い路地を曲がった。

「うわ、あすこにあるのホテル…あすこはパブ…」
「人の歩く道々でそういうものばかり見つけるのはどうなの」
「目に付くんだからしょうがないじゃないですか」
「…」
「今、女っていうのはそこら中に危険があるんです」

不安げというか怒っているというか、そんな顔の雪弥。
それを見てまた自然に笑顔になる。
昔の俺じゃあ、こんなことはできなかったなぁ。

「ここ、入って」
「あ…はい」

路地を抜けたちいさなアパートに雪弥を入れる。
鍵は閉めないで下さいという雪弥を押して、鍵を閉める。
雪弥はちいさく怯えた後、出口に一番近いところから動かなかった。
部屋の中はそれなりにきれいにされているから安心だ。
これまでここに女の子を入れたことはないから少し不安だったけど。
ちいさなテーブルと積み上げられた本に目を走らせる雪弥。
俺は彼女をうながしてもうすこし中へと入れる。
テーブルの前に向かい合って座ると、雪弥は口を開いた。

「…意外とかたづいてるんですね、男の部屋って」
「まぁ」
「あの…はるいち君は、いくつなんですか?」
「高3、雪弥は高2、知ってる」
「それで…何を探してるんですか」
「うーん、詳しくは言えない」
「…それってあたし、何を調べたらいいのか分からないんですけど」
「だから、俺がいちいち言う細々したこと調べてほしいんだ」
「たとえばどんなことを? あたしに調べられるか…」
「いや、事務的な作業とかだから大丈夫だと思う」
「…なんか、素にもどってきましたよね」


まじまじと俺を見る雪弥。
よくわかってる、俺の素だ。

「どちらかというと、こういう年齢らしい、というか大人な感じの」
「わかったみたいなら話は早い、じゃあ俺の言うこと聞いてくれる」
「はい」

きびきびとした返事をする雪弥に、俺は一冊のノートとファイルを渡す。

「このノートに書かれていることを、2日でまとめて」
「何が書いてあるんですか…?」
「それは家で見てください」
「は、はい…それじゃ帰ります」

そそくさと荷物をまとめて、玄関へと向かう。
そんな雪弥を追いかけて、俺は言う。

「2日後、同じ公園に5時」
「わかりました」
「忘れないでね、雪弥のしたことを俺は知っているんだ」
「…はい」

少し重く暗くなった瞳でどこかをまっすぐに見つめる。
その瞳に俺の笑顔を映して、俺は手をふった。

「ばいばい」
「さ、さようなら」

俺の獲物は、手の中に。



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