俺はコーヒーを、宇佐美さんは抹茶を頼む。
なんか抹茶って育ちよさそうだね。
俺はまた彼女の後ろで笑う。
「あの…どういうつもりですか」
「何で?」
「突然…金曜日のこととか言い出して、何かあるんですか?」
「俺は葉月春一、俺の学校知ってる?」
「…東高ですよね、あの」
「そう、あの東高 だから君の学校に彼女のいるヤツもいるんだ」
「…」
「君がやったことは、わかってるんだ」
返事に窮する様子は見せずに、冷静にストロ−を握っている。
そして宇佐美さんは無感情の瞳で、こちらを見上げた。
「だからどうしたっていうんですか」
「?」
「あたしが何をしたか知ってて、それをネタに脅す気ですか」
「そうとも言うね」
「…脅すって何がほしいんですか、金ですかからだですか」
結構露骨な表現をするんだな、宇佐美さんって。
俺は苦笑したが、それに臆することなく、彼女は続ける。
「あたしの家にはお金はありませんし、こんなブスじゃからだも売れません」
「からだを売るのにブスとかあんまり関係ないじゃない」
「それにあたし、そのネタ脅されても暴露されても何も困りませんから」
「ふーん」
意地っ張りだな、根性の座った女だ。
「じゃあさ、それ君の学校の先生に教えてもいいのかな」
「…それは、別に」
「本当は困るんだろ? 俺だって別にそんなことしたいとも思ってないんだし」
「そうなんですか、あたしあなたのこと」
「葉月春一」
「は、葉月君のことよく知らないから、信じられません」
そう言うと、宇佐美さんは目をそらせてストローをすすった。
細い指、少し短いつめ。
この指をもてあそんだら、楽しいかな?
想像すると、俺はまた自然に笑顔になった。
「さ、さっきからどうして笑ってばかりいるんですか」
「ううん、これ俺の癖なの、直せないの、宇佐美さんだってその性格直せないんでしょ?」
「あ、あたしは別に直そうとも思ってませんから」
「ふーん」
「だから、あたしはあなたに脅されませんから、帰りますっ」
「えー、もったいないじゃん、まだ残ってる」
「…」
怒ったようにもう一度座りなおして、ストローを思い切りすする。
ずぞぞぞぞぉとすごい音がして、恥ずかしそうに口を離した。
「っはは、宇佐美さんて面白いね」
「はぁ? こ、これ飲んだから帰ります」
「待ってよ」
人の言うことにいまいち逆らえない体質なのだろう、彼女はとまった。
そこを狙って、俺は笑顔でささやいた。
「金もからだもいらないから、俺の言うこと少しだけ手伝ってよ」
「…?」
「別にやましいこともいかがわしいこともしないから、ね?」
困ったような怒ったような顔をして俺を見る宇佐美さん。
彼女の瞳は重く、暗く、つめたかった。
「アドレスと番号教えてよ」
「…葉月君の携帯貸してください」
「そうだ、俺のこと、はるいちって呼んでよ」
「はるいち? 春一じゃないんですか」
「いいでしょ、はるいちって呼んで」
「…わかりました」
「じゃあ俺は宇佐美さんのこと、雪弥って呼ぶから」
「…わかりました」
本当は嫌だけど、脅されるのが恐くて、じっと我慢して言うことを聞いている。
こんなに強情な獣を、俺はてなづけている。
酔うような快感が、全身をしめつける。
俺のきれいな獲物、少しずつ近づけていく。
NEXT?