夏が好きだよ

あのメールを思い出す。
吾平はよく、部活の話をメールでしてきた。
それはよく、厳しい内容のメールだったけど、吾平は楽しそうだった。
たまに会えば部活のはなしばかりして、笑顔でいた。
こいつは部活馬鹿だ、部活しかないのか、なんて思ってた。
その吾平が、こんなに苦しんでいたなんて。
その吾平が、こんなことをさせられていたなんて。
嘘も本当も、吾平の中にあったけど。
吾平はその美しい部分だけを俺に見せていた。
自分でも、美しい部分だけを信じていた。
嘘だって信じてたものは、本当だったのに。
吾平はそれに気づかないまま、罪を重ねてしまった。
そんな吾平を、俺は助けてやれなかった。

俺の目から、何かが落ちた。

「…泣いてるの?」

吾平は不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。
吾平の目にも、俺の目にあるものと同じものが漂っている。

「どうして泣いてるの? あたしのせい?」
「…違う、俺のせい」
「あたしのために泣く人は、みんなあたしなんて消えればいいと思ってた涙だった」
「俺は違う」

俺は吾平のつめたい手を握りしめた。

「俺は、俺が吾平を助けてやるべきだったのに…」
「渉…」
「1番近くにいた俺が、吾平を助けてやるべきだったのに」
「渉…」
「俺はお前の困ってるそばで、何にもしてやれなかった…」
「そんなことない」
「ごめんな吾平、俺達幼馴染なのにな…ごめんな…」

俺が腕で涙をぬぐったら、吾平はその腕をとって同じように泣き出した。
ふたりともふるえるような嗚咽をこらえて。
吾平のあたたかい涙が俺の腕を伝う。

俺はそうして、吾平の涙を吸い込んだ。
もうこの手を離さないって誓った。

「吾平」
「何?」
「俺さ、吾平のこと好きだった」

自然に出た言葉は、居場所を見つけて座り込んだ。
吾平は泣き笑いで、俺を見て言った。

「あたしはずーっと渉のこと好きだったよ」

その笑顔は、とてもきれいだった。
互いの涙をふきあって、俺達は立ち上がった。
「あたし犯人だって、名乗りをあげるわ」
「その必要はないよ」
「そんなことない、あたしは自分で起こしたことはちゃんとけりをつける」
「小杉先輩には、なんていう?」
「それも、自分で話しつけるわ」
「…俺はいなくてもいい?」

貴方のきなたい過去だって、俺に見せてほしい
手を伸ばして、助けを求めてほしい
これが、俺の気持ち

「渉が…いてくれたら、うれしいな」

吾平の笑顔は、とても晴れやかだった。


これから貴方の歩く道はつらくけわしいけど
俺の差し出した手が
貴方の助けになるのなら
それはとてもとても嬉しい

夏の大好きな吾平は、なついろのアルバムにきれいな自分だけアルバムにはりつけた。
きれいなきれいな、修正された嘘ばかりの記憶。
それだけを俺に見せていた。
でももう、違う。
吾平はこの夏に、なついろアルバムを捨てる。
偽ったまま生きていくのはやめるんだ。
俺の手をひいて、真実の泥臭いアルバムを作ろう。
きっとそれは、本当のきれいなアルバムに変わるよ。

ばいばい、なついろアルバム。
いつか本当にうつくしいアルバムを完成させるから。



THE END